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2021.08.24

岩崎陽子『浪漫狩り』第1巻・第2巻 昭和トレジャーハンター伝奇開幕!

 『王都妖奇譚』『無頼』『ルパンエチュード』と、熱い男の友情と冒険・伝奇の世界を描いてきた作者による、昭和初期を舞台とした伝奇冒険活劇であります。大学講師にして「埋蔵金盗掘指南」の顔を持つ男・猿渡遼太郎が挑む、遺跡発掘と宝探しの世界とは……

 普段は帝大で考古学講師を務める猿渡遼太郎。彼のもう一つの顔は、埋もれた遺跡や財宝の発掘を狙う者たちに様々な助言を行う「埋蔵金盗掘指南」であります。
 「盗掘」とは聞こえが悪いですが、猿渡からすれば、元々の建造者や埋蔵者の意図と無関係な発掘はすべて「盗掘」。彼にとって指南とは、そんな「盗掘」に血道を上げるトレジャーハンターたちの行為が大事にならないように、そしてその妄想を断ち切るための行動なのです。

 そもそも彼の父は伝説のトレジャーハンターとして世に知られた結城晶造。しかし猿渡は家庭を――母と自分を全く顧みることなく、宝探しの最中に消息を絶った父を憎み、トレジャーハンター自体に否定的な目を向けているのであります。
 その一方で、学生時代からの親友で世界的冒険家の羽佐間雄大とは今でも親交を結び、トレジャーハンター志願の少年・篁伊織を弟子としている、ちょっと矛盾した(本人に言わせればつじつまが合っている)、そして一癖ある(しかし結構熱くなりやすい)人物なのです。


 さて第1巻では、猿渡と羽佐間がとある名家の遺産探しに挑む序章、この先様々な形で猿渡に絡む新聞記者の青年・那珂川慶輔の依頼で呪われた埋蔵金事件を解決するエピソード、そしてトレジャーハンターだった伊織の父が果たせなかった武田金山衆の隠し金に挑むエピソードと、シリーズ全体のプロローグ的内容が続きます。

 そしてこの巻のラストに収められているのは、中央アジア・カジェスタンから出土したメダリオンを巡る争奪戦であります。
 展示のため日本に持ち込まれたこのメダリオンが何者かに奪われ、思わぬ形でセレス王女と関わることとなった猿渡と那珂川。二人はメダリオンを奪った詐欺師・犬神隆を追うのですが――他の回同様の単独エピソードに思われたこの回は、しかし、様々な形で物語全体に関わっていくこととなります。

 特に、このエピソードに登場する犬神は、実はかつて猿渡の父の一番弟子だったという因縁を持つ男。さらに彼にメダリオン強奪を依頼した軍の特務部隊の篠原少佐は、物語全編を通じて暗躍する人物であり――読み返してみると、この第1巻の時点で主要な登場人物はほぼ出揃い、今後の物語展開に向けた準備が整っているのに感心させられます。


 そして第2巻では、かつて富士高天原王朝論を唱えて学会から追放された考古学者が、とある財団のバックアップで富士の遺跡を発掘。そこでカディスのものとは似て非なるメダリオンを見つけるも、軍内部の抗争に巻き込まれ――と、物語は一気にギアチェンジ。
 富士高天原王朝、宮下文書、神代文字と好きな人には懐かしいキーワードが並ぶのも堪りませんが、このメダリオンが、水晶部分と金属部分が完全に癒着して融けあっている――すなわち途中から全く別の物質に変化している代物という辺り、何ともゾクゾクさせられるではありませんか。

 そして財団の背後には、第1巻ラストに登場した篠原少佐の影があるのですが――さらに彼の上官として、超古代の叡智を狙う皇族軍人・箆岐宮大佐が登場。
 この箆岐宮大佐、張作霖爆殺の陰で糸を引いていたという噂もある怪人物なのですが――実は第1巻の時点では戦前が舞台という印象は少なめだった本作も、ここに来て一気にらしさが増してくることになります。
(また、この第2巻冒頭では、猿渡の幼馴染でヒロインの藤沢実澄が登場。しかし男同士の友情が熱い本作では出番は今ひとつ……)

 そして後半では、那珂川の案内で富士の人喰い穴の調査に向かった猿渡が軍の襲撃を受け、先に潜っていた犬神と遭遇。人食い穴に閉じ込められた一行は、呉越同舟で奥に進むことに――という展開となります。
 その先にあったのは、植物の仕組みを模した自律性と自己修復能力を持つ、古代には、いやこの時代にもありえない超科学力で作られた遺跡――とこれまた胸躍る題材が登場し、物語はさらにスケールアップしていくのであります。そしてその一方で、あまりに有能すぎてちょっと怪しかった人物に、思わぬ裏の顔があることが明かされ……


 というわけで、昭和初期を舞台とした電気冒険活劇として、この先いよいよ盛り上がっていく本作。今後、全7巻の第3巻以降は、もう少しじっくりと紹介させていただく予定です。


『浪漫狩り』(岩崎陽子 秋田書店プリンセスコミックス) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon

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