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2021.09.18

恵広史『カンギバンカ』第4巻 夢の始まり、そして受け継がれる想い

 今村翔吾の『じんかん』漫画版たる『カンギバンカ』もこの第4巻で完結。三好元長の命で安芸に向かい、鏡山城を巡る戦いに加わった九兵衛が見たものとは。そしてその先、彼は如何なる道を選び、どこにたどり着くことになるのか……

 多聞丸らかつての仲間を失った末に、「奪い奪われることのない場所をつくる」という夢の第一歩として、三好元長に目通りするために堺に向かった九兵衛と弟の甚助。そこで九兵衛は、安芸に向かい、鏡山城攻めを見聞するよう元長に命じられるのでした。
 三好と結ぶ尼子経久と敵対する蔵田房信・直信兄弟が守る鏡山城。そこで多治比元就の隊に加えられた九兵衛と甚助は、初めての合戦で手痛い洗礼を受けることになります。

 そして戦いの末に、蔵田直信を捕らえた経久。経久に説かれ、兄に降伏を勧めることとなった直信ですが――実は経久の真意が、兄弟を同士討ちさせて鏡山城を奪うことにあると知った九兵衛は、それを止めるために決死の策にでることに……

 というわけでこの巻の前半に描かれるのは、原作にないオリジナル展開の鏡山城編のクライマックス。
 房信と直信の骨肉の同士討ちを避けるため、甚助とただ二人で鏡山城に潜入し、先に房信を討たんとする九兵衛ですが――いかにもこの強引な策は既に読まれていた上に、傲岸な一方で疑り深い房信の暴挙によって、事態は最悪の方向に向かうことになります。

 それでも辛うじて状況を収め、経久と直信の和睦の場に臨むこととなった九兵衛。しかし彼がそこで見たものは……


 先に述べたとおり完全オリジナル展開ということもあり、当初は(九兵衛・甚助と房信・直信の対比があったとはいえ)その意図が掴みにくかったこの鏡山城編。しかしこの結末における経久の行動と、それに対する九兵衛の想いを見ることによって、それが理解できたように感じます。
 たとえこの先の被害を抑え、自分の守るべきものを守るためとしても、一度言葉を尽くして迎え入れた相手を裏切ることが、滅ぼすことが許されるのか。そしてそれができる武士とは何者なのか――それは人ではなく修羅というべき存在ではないか?

 そのことを九兵衛に(そしてもちろん読者に)突きつけることによって、本作は彼の歩むべき道を示すと同時に、その道と重なり合う、この後に三好元長が語る大きすぎる夢に、ある種の説得力を与えていると感じられます。
 そしてここに至り、九兵衛が姓を名乗る展開には、否応なしにグッとくるものがあるのです。


 そしてこの巻の後半では、原作の展開に戻り、元長の参加で堺の傭兵・堺衆を束ねる立場となった九兵衛――松永久秀が、将軍・義晴を擁する細川高国・若狭武田軍と激突する桂川の合戦が描かれることになります。

 宇治の国人領主・海老名権六と四手井源八、柳生流の若き達人・瓦林総次郎――その後も行動を共にする頼もしい仲間たちとともに激闘に挑む九兵衛と甚助。
 その前に現れた凄腕の使い手・坊谷仁斎――それこそはかつて多聞丸をはじめとする仲間たちを皆殺しにした男、いわば九兵衛の運命を大きく狂わせた相手であります。

 その相手との激突の結末は、そのクライマックスの演出も含め、実に良い意味で漫画的で、はっきり言えば、原作を超えるインパクトが確かにあったと感じました。


 そしてこの桂川の合戦のエピソードをもって過去のエピソードは終わり、ラストで描かれるのは「現在」――物語の時間軸は冒頭に戻り、再び信長に叛いた久秀の姿が描かれることになります。
 はたして何ゆえ彼は叛いたのか、そこまでして彼が求めるものは何なのか――それを描くとともに、その想いを受け止め、受け継ごうとする者の姿を描いて、物語は終わりを告げることとなります。

 実は桂川の合戦辺りまでで原作は約半分。つまりは本作においては原作の後半部分は描かれなかったわけですが――こうして読んでみると、これはこれで一つの物語としてきちんと形になっていると感じられます。
 もちろん、元長の夢の結末、そしてそれを受け止めた久秀がなぜ大悪人と言われるようになったか――それらが描かれなかったのは勿体無くはあるのですが、それを描かないことによって、物語には原作以上に前向きな空気を漂わせる結末だと感じます。

 それは当初の狙いとは違うものかもしれませんが、それはそれで意味のあるものであったと、結末まで読んで感じた次第です。


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