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2021.09.16

『MARS RED』 第8話「煉獄」

 烈震から数日後、ただ一人仲間を求めて崩壊した帝都を彷徨う秀太郎。しかし彼が見たものは、人々が突然ヴァンパイアとなり、金剛鉄兵がそれを斃していく地獄絵図だった。そんな中、ヴァンパイアたちに襲われていた子供のヴァンパイアを助けた秀太郎は、天満屋と出会い、身を寄せることになるが……

 前々回、地割れに呑まれて行方不明になったものの、何とか生還した秀太郎。しかし震災からは数日経ち、崩壊した特務隊本部には既に誰の姿もありません。仲間たちを求めて彷徨う秀太郎が見たのは、焼け出された人々の中で突如ヴァンパイアと化す人間が現れ、それを金剛鉄兵が冷徹に叩き潰していく姿でした。
 しかし秀太郎の呼びかけにも応えることなく、何処かへ消えていく金剛鉄兵。その後、炊き出しを手伝う葵の姿を見て安堵したり(一応心配してはいたんだな……)、山上の家を訪ねて、前田らしき男が既に訪れていたことを知った秀太郎ですが、相変わらず仲間たちの消息は掴めません。

 その間も、人々の間で発症し、犠牲者を増やすヴァンパイア病。軍はこれに対してワクチンを配布していたのですが――実はこれこそはルーファスと結んだ中島の手になるアスクラだったのであります。ワクチン(アスクラ)によってヴァンパイアを増やし、これを金剛鉄兵によって排除する――このマッチポンプによって、中島は金剛鉄兵の有効性を示そうとしているのでしょうか――?。

 そうとも知らず彷徨い続ける秀太郎の耳に届いた、助けを求める子供の声。駆けつけた彼が見たものは、理性を失ったヴァンパイアたちに取り巻かれた子供のヴァンパイアたちでした。子供たちを保護してとりあえずその場を離れた秀太郎に声をかけたのは、天満屋の慎之助。天満屋の浅草店は震災で廃業したものの、千本鳥居(山王稲荷?)の奧にある洋館で密かにヴァンパイアたちを匿っているというではありませんか。
 そこで金剛鉄兵の正体を語る秀太郎と、彼にワクチンこそがアスクラだと教える慎之助。取りあえず天満屋に身を寄せることとなった秀太郎は、慎之助の頼みで、番頭さんとともに開業前の地下鉄駅に隠された食用血液の確認に向かうのですが――実はそこは既に敵の知るところであり、ルーファスの操る金剛鉄兵に襲撃をされることになります。

 こちらの言葉は全く届かず、ただ襲ってくるばかりの金剛鉄兵に絶望する秀太郎。ヴァンパイアとしての顔を初めて見せ、刀を抜く番頭さんとともに抵抗する秀太郎ですが、多勢に無勢――というところで、一人だけ目の色が違うあからさまに怪しい金剛鉄兵がいるな、と思ったらこれが突然暴走、同士討ちを始めたところを辛うじて秀太郎たちは脱出するのでした。


 ようやく秀太郎を主人公に(?)展開することとなった今回ですが、描かれるのは、所属する部隊もなく――元々存在自体が秘匿されていたのか、軍の人間に聞いても特務隊の存在は知られていない様子――前田も三人の仲間もいない、そんな中でひたすら彼が震災直後の帝都を彷徨う姿と、その中で目の当たりにした地獄絵図であります。
 話自体はほとんど進んでいないようなものですが、この異様な舞台設定のインパクトはなかなかのもの。そして何といっても秀太郎を演じる畠中祐の気弱演技がハマりまくり、想定外の自体に揺れまくる彼の心が非常によく現れていたと思います。

 しかし、(原作舞台にあるエピソードかは恥ずかしながら存じ上げないのですが)このタイミングでワクチンが実は諸悪の根源だった的な話をやるとは、偶然とはいえちょっと……


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唐々煙『MARS RED』第3巻 決戦、そしてヴァンパイアたちの最後の任務

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