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2021.09.21

劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』 安倍晴明vs九尾の妖狐! フルスペックのいのうえ歌舞伎復活!

 久々の劇団☆新感線であります。平安のヒーロー・安倍晴明と平安の大妖怪・九尾の妖狐の激突を、中村倫也と向井理という豪華キャストで描く、知恵比べあり大立ち回りありの大活劇――中島かずき脚本・いのうえひでのり演出のいのうえ歌舞伎、堂々の新作『狐晴明九尾狩』を観劇して参りました。

 平安の夜の闇を切り裂く流星――それをこの世に災いをもたらす凶兆と見て、帝に奏上せんとする安倍晴明(中村倫也)。ところが宮中で疎まれている晴明の言は容れられず、代わって重きを為すようになったのは、大陸留学から帰ったばかりの陰陽道宗家・賀茂利風(向井理)でありました。

 しかし自分にとっては親友だった利風こそが、大陸でその身を乗っ取り、日本にやって来た九尾の妖狐の化身であることを見破った晴明。その事実を伝えに来日した狐霊のタオフーリン(吉岡里帆)らと共に、その正体を暴き、京を救おうと奔走する晴明ですが、逆に利風の策にはまり、窮地に陥ることになります。

 その間にも宮中に取り入り、新たな貨幣鋳造を進める利風。果たしてそこに秘められた利風=九尾の妖狐の恐るべき思惑とは何か。そして晴明は九尾の妖狐を倒し、親友の仇を討つことができるのか――丁々発止の知恵比べが始まります。


 個人的なお話で恐縮ですが、昨年の『偽義経冥界歌』は(観劇しようと思っていた回が)中止となり、『神州無頼街』は延期となり――本当に久々の新感線観劇となった今回。

 このご時世ゆえでしょう、いつもの新感線の舞台よりも明らかに短い二幕で三時間弱という構成ですが、その分、かなりテンポ良く進んでいく印象があります。
 出演陣のメインは外部の俳優中心、脇をベテラン劇団員が固めるというパターンですが、メインどころは吉岡里帆以外、全員新感線経験者ということもあり、まったく違和感ない内容でした。

 物語に目を向ければ、晴明と蘆屋道満以外は全て架空の登場人物となっており、ファンタジー要素が強い内容の本作。その分、史実に縛られずに、自由に人と妖の物語が展開されていた印象があります。
 細かいことをいえば、九尾狐が日本に現れるのは晴明の時代から約二百年後ですが(といってもこういうお話もあるのですが)、作中で語られる設定は全くのオリジナル、性別も男ということで……

 ちなみにいのうえ歌舞伎で晴明というと『野獣郎見参』を思い出して、思わず身構えそうになりてしまますが、本作の晴明は比較的シンプルな、色々な意味で心正しき陰陽師。
 飄々として物柔らかな、しかしどこか油断ならないキャラクターは、演じる中村倫也という役者のイメージ通りですが――その一方で、時に驚くほど喜怒哀楽の激しい側面を見せてくれるのが印象的で、それが物語の諸所で効果的に描かれています。

 それにしてもいのうえ歌舞伎というか新感線の主人公は「好漢」と言いたくなるキャラが多いのですが、今回の晴明は「イケメン」それも「やだ、イケメン……」と言いたくなるような反則的な造形。
 一方、彼とは人間時代には肝胆相照らす親友、妖狐に乗っ取られてからは不倶戴天の敵となる行風役の向井理は、絵に書いたようlなクールな美形悪役ぶりに感心であります。

 物語のメインとなるのは、この二人が騙し騙されの知恵比べなのですが――内容的にアタック&カウンター・アタックの連続という印象ではあるのですが、しかし終盤の畳み掛けるようなどんでん返しの連続(ここからまだ来るか!? と本当に何度も思わされるほど)が実に強烈。
 何よりもクライマックスに至り、その知恵比べの構図の意味が、晴明と行風の二人の想いのぶつかり合いと共に浮かび上がる様は、ただただ圧巻というほかありません。

 そしてその先に、一種のパブリックイメージとしての超人晴明像をフォローしていくのも、心憎いところであります。


 正直なところ、時間が短いわりには(特に味方側の)キャラクターがバラエティに富みすぎていて、個々の出番が少なめに感じる部分はあります。
 しかし得体の知れない強キャラ感と変態ぶりを兼ね備えた千葉哲也演じる道満や、普段のイメージとは全く異なる武人キャラだった浅利陽介演じる検非違使など、いつもながらに個性的なキャラの乱舞に惹きつけられたのもまた事実であります。
(しかし、私もたいがい色々な道満を見てきましたが、こんな性癖のは初めて見た……)

 キャラ・物語・演出――フルスペックで復活した劇団☆新感線、復活したいのうえ歌舞伎を堪能させていただきました。


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