« 宮本昌孝『夏雲あがれ』下巻 阻めるか御家騒動!? そして三人が戦う理由 | トップページ | 『MARS RED』 第7話「手紙」 »

2021.09.09

岩崎陽子『浪漫狩り』第4巻 もう一つの過去、そして親友の運命の変転

 超古代文明遺跡の謎を巡り、考古学者・トレジャーハンター・軍部が入り乱れる伝奇活劇もこの第4巻で折り返し地点。この巻では、もう一つの過去の物語が描かれる一方で、猿渡の親友・羽佐間の運命が思わぬ形で変転、事態に大きな影響を与えることになります。

 人間の作ったものとは思えない超古代文明の遺跡に関わり、軍部やトレジャーハンターたちとやりあう羽目となった、考古学者にして埋蔵金盗掘指南の猿渡遼太郎。この巻の冒頭では猿渡の物語から離れ、遺跡を巡って暗躍する陸軍特務の篠原少佐(とその部下・岩槻大尉)、そして新聞記者を装って猿渡に接近する那珂川少尉の兄の過去が描かれることとなります。

 いまだ物語の前面(≒猿渡の前)には登場しないものの、折りに触れて姿を現し、不気味な存在感を示す篠原少佐。隻眼隻腕の美形軍人という、いかにも何か有りげな怪人物ですが――ここで描かれるのは、まだ彼が現在の姿になる前、理想に燃える若き軍人であった頃の姿であります。
 市ヶ谷の陸軍士官学校で、そして軍人として派遣されたシベリアで、その才能を発揮していた篠原。しかし彼はあくまで副官、彼が支えていた相手こそは、その親友である「英雄」――那珂川隼人だったのです。

 一見物事に無頓着でいい加減に見えつつも、しかしそのがむしゃらな熱さで周囲を巻き込み、不可能を可能してきた隼人。「現在」でも篠原の上官であり、市ヶ谷時代から何かと因縁のあった箆岐宮教官が繰り出す難問を突破し、そして孤立した戦線から奇跡の脱出を成し遂げる――そんな隼人を支える篠原は、どこか幽鬼めいた「現在」の彼の姿とは全く異なる、クールだけれども、しかし血の通った人間として感じられます。

 彼が変わったきっかけだという、片目片腕とともに隼人を喪った時のことは、ここではまだ語られないのですが――しかしここで描かれる隼人の姿と、二人の友情の在り方を見れば、その喪失感と絶望は十分に理解できます。(兄の存在を振り仰ぎ、目標にする那珂川の想いもまた)
 そして、もはやこれまでのような不気味な敵としてのみとは、彼のことを見られなくなっていることに、我々は気付くのであります。


 さて、そんな熱くももの悲しい友情の姿が描かれる一方、この巻の後半で描かれるのは、こちらは今なお熱い友情で結ばれた猿渡と羽佐間の物語――というより羽佐間の物語。
 彼らが学生時代から変わらぬ友情を築いていることは前の巻で描かれましたが、その中でさらりと語られたのが、羽佐間が日本有数の財閥・高倉財閥当主の妾腹の子であるという事実。ここではその事実が大きくクローズアップされることとなります。

 一度は財閥継承者と目されながらも、そこから飛び出し、冒険家として世界中で活躍する羽佐間。しかしここに至り突然財閥に呼び戻され、連絡の取れなくなった羽佐間を追って、猿渡は財閥に乗り込むことになります。
 ところがそこで彼を待っていたのは意外な事実――羽佐間の姉夫婦が投資していたグループの鉱山から、新たな超古代文明の遺跡が発見されたというのであります。

 遺跡を守るためには、財閥のトップの座に就く必要がある。しかしそれは羽佐間がその地位に縛られるということでもあります。それを決断の前に、羽佐間は猿渡と二人、遺跡をその目で確かめるために現地に向かうのですが……

 物語の冒頭から、猿渡の親友(悪友)として登場し、強い存在感を放ってきた羽佐間。しかしすぐに猿渡の相棒的ポジションは那珂川に取って代わられた感があり――那珂川の正体の件や、猿渡と羽佐間の学生時代のエピソードがあったものの――少々残念に思っていたのですが、ここでこういう形で大活躍の場が与えられるとは!
 冒険家と財閥の長というのは意外な取り合わせですが、しかし敵が軍部ともなれば、これくらいのスケールの味方がいてようやく互角といったところ。事実、ここに至ってようやく、猿渡たちは軍に一矢報いることが(それも実に痛快な形で!)できたのですから……


 まったく思わぬ方向に物語は動き出しましたが、ここからが後半戦、ここからがクライマックス。はたしてその向かう先は――次巻に続きます。


『浪漫狩り』第4巻(岩崎陽子 秋田書店プリンセスコミックス) Amazon

関連記事
岩崎陽子『浪漫狩り』第1巻・第2巻 昭和トレジャーハンター伝奇開幕!
岩崎陽子『浪漫狩り』第3巻 主人公の原点――考古学という学問の意味、浪漫を持つということ

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 宮本昌孝『夏雲あがれ』下巻 阻めるか御家騒動!? そして三人が戦う理由 | トップページ | 『MARS RED』 第7話「手紙」 »