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2021.09.03

音中さわき『明治浪漫綺話』第2巻 吸血鬼の王、その誕生のメカニズム

 第1巻の紹介からずいぶん間が開いてしまいましたが、文明開化の東京を舞台に、華族に引き取られた少女・十和と、お雇い外国人として日本に訪れた吸血鬼・ルイスを主人公に描く物語の第2巻であります。鹿鳴館の舞踏会目指して奮闘する十和の周囲で起きる奇怪な事件。それを引き起こす者が求める吸血鬼の王とは……

 子爵と芸妓の間に生まれ、その父が亡くなったために、岡山から東京の日与守家に引き取られた十和。突然華族として良家の子女が通う女学院に通うこととなった彼女は、ある日、何者かが女学生を襲う場に遭遇し、怪人の毒牙は彼女にも迫るのでした。
 そこに現れて怪人を撃退したのは、女学院の講師を勤める美貌の異国人・ルイスと、その従者・東――実は二人は、そして襲ってきた怪人もまた、人の血を糧に長い時を生きる吸血鬼だったのです。

 その事実を驚きながらも受け入れ、女学院での日々を過ごす十和。しかし時の首相からの要請で鹿鳴館の夜会に参加することになった女学院と女子高等師範学校の生徒の間が険悪なムードになって……


 というわけで、人間と吸血鬼の間のパラノーマルロマンスかと思いきや、一種の学園もの的ストーリーが展開することとなった本作。
 華族中心の女学院と、庶民中心の女子高等師範学校は元々犬猿の仲、さらにそこに欧化政策に反対する勢力の嫌がらせも重なって複雑な状況に――というところで、庶民出身で今は華族の十和の出番となるのですが、事態はそこからさらに二転三転していくことになります。

 そんな彼女の存在を快く思わない公家華族の少女・宮小路麗子から、ダンスの練習の最中に嫌がらせを受ける十和。しかし彼女の首筋には、何者かの咬み跡があったのであります。
 実は以前十和を襲ったあの怪人に襲われていた麗子。そして吸血鬼に血を与えられた彼女の力は、華族の娘として抱えていたその鬱屈に反応し、暴走しかけていたのであります。

 ――なるほど、こういう形で物語が繋がるのか! と思えば、さらに物語は急展開することになります。
 麗子を襲った吸血鬼・クライネスと、真の姿を以って対峙するルイス。その姿を目の当たりにしたクライネスは、歓喜の表情で頭を垂れるではありませんか。

 ルイスを王と、始祖と呼び、真の姿を取り戻したことを喜ぶ相手に、ルイスがかけた言葉とは……


 学園ものとしての顔と、吸血鬼ものとしての顔が目まぐるしく入れ替わる形で物語が展開していく本作。

 その両者を繋ぐのが十和の存在ですが、どうしても状況に流され気味(仕方ないといえば本当に仕方ないですが)の彼女に比べて、この巻で印象に残るのは、やはりルイス――というより吸血鬼の在り方でしょう。
 コウモリになったり人間を操ったりと、由緒正しい(?)能力を持つ本作の吸血鬼ですが、しかし実は、その生態はかなり本作ならではのオリジナルのものなのです。

 特にルイスに代表される「始祖」と呼ばれる吸血鬼を創り出す仕組みなどは、むしろメカニズムと呼ぶに相応しい内容に仰天させられること請け合い。
 そしてまたこの設定は、ルイスが、人間に対してより、むしろ同族に対して超然としているその原因として、なるほどと納得させられるのです。

 ――しかし、この設定を知ると、今度はそんなルイスが、大手を振って外の世界で、いやそれどころか海を超えたこの国で暮らしているのが不思議に思えるのも正直なところ。
 実際、回想シーンではイギリス王室に捕らえられている姿が描かれているのですが、少なくとも東の存在を考えれば、幕末の日本に来訪しているわけで、まだまだその謎は多いと言わざるを得ませんー


 敵と呼べる存在を倒してしまったこともあり、物語がどこに向かうのか、まだまだ見えない点も多い本作。ルイスとの距離を少しずつ縮めているように見える十和のこの先も含めて、気になるところであります。


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