『MARS RED』 第7話「手紙」
一年前――女優を目指す中島岬は、住み込むこととなった帝国劇場の屋根裏で、看板役者であるデフロットと出会う。デフロットの指導の甲斐あってか、サロメの主役の座を射止めた岬。しかしその矢先、岬は舞台上で事故に遭ってしまう。岬の前田への想いを知るデフロットは、彼女に血を分け与える……
折り返し地点の今回描かれるのは、時を遡って一年前の大正11年冬から始まり、第1話へと続くエピソード。前回、山上の犠牲によって瓦礫の下から救い出されたものの、傷からか落胆からか、そのまま動かずへたりこんだままの前田の前に現れた、デフロットが語る物語として描かれます。
帝国劇場に住み込みの女優として採用された中島中将の娘・岬。(その後中島に殺されることになる)沖村の口利きで採用されたとのことですが、自宅からは通わず住み込みでという辺りに、彼女のやる気と、実家の複雑な事情を感じさせます。何はともあれ、割当である屋根裏部屋に荷物を運び込んだ岬ですが――そこにいた先客がデフロット。
初対面の岬は、痩せっぽちの彼を見て、忍び込んだ孤児か何かだと思ったようですが、実際には英国大使の推薦があったとのことで、その実力に彼女も感心することになります。それでも何かと子供扱いする岬にむくれながらも、デフロットは物怖じしない彼女との距離を縮めていくことに……
一方その頃、シベリアに出征が決まった秀太郎を、東京駅に見送りに来た白瀬葵。彼女は何かと煮えきらない秀太郎にイラっとしつつも、必ず生きて帰ってきてと笑顔で送り出すのでした。それにしても、第1話の時点では髪型のせいでピンときませんでしたが、確かに髪が長いと岬と葵はどちらがどちらかわからなくなるくらい似ている……
そしてまるで本物のお姫様を見てきたかのような(本人は見てきたと言っていますが)デフロットの演技指導の甲斐あってか、サロメの主役の座を射止めた岬。その合間にも、会ったこともない許婚である「前田のおじさま」と嬉しげに文通を続ける岬を、デフロットは興味深げに見つめます。
そんな中、一度実家に帰り、久々に父と会った岬。ちょうどそこに訪ねてきたルーファスと父の会話から何を思ったか、岬はヴァンパイアの実在を感じ取ったようですが――まさかその直後、彼女自身がヴァンパイアと化すとは。
舞台上で練習する岬の上に、事故(だよなああれは)でセットが倒れかかり、その下敷きとなった岬。瀕死の状態で、前田のおじさまにサロメを見てもらいたいのに、と彼女が呟くのを聞いたデフロットは、自らの血を彼女に与えて……
そして「現在」、その物語を聞いてももはや動こうとしない前田に対し、自分たちがしていることは自分たちで終わらせろ、僕たちの晩節を汚させはしないと、業を煮やして詰め寄るデフロット。そして彼は自らの血を……
というわけで、第1話で描かれたことの意味が、改めて明らかになる今回。物語的にはほとんど前進していないようなものですが、しかし以前描かれた物語が、今回を経て見ると、また違ったものとして見えてくる構成は実に好みです。
少なくとも、光の刺さない月島の地下で、サロメを演じ続ける岬が何を思っていたのか、何に突き動かされていたのか――もちろん第1話の時点でそれは理解はできたのですが、しかし改めて突きつけられれば、胸塞がる思いがいたします。
そしてラスト、明確には描かれてはいませんが、デフロットの血を与えられたであろう前田がいかなる道を歩むことになるのか――今の時点では全くわかりません。これまでの流れを考えれば、中島中将を止めるために動くのだろう、としか思えませんが……
(しかしデフロット、前田を「人間」呼ばわりしながら血を与えるのはいかがなものか)
そしてその一方で、ようやく葵との会話が描かれるなど、圧倒的に前田に比べると描写が少ない秀太郎の運命や如何に。
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