« ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第8巻 去りゆく人々、そして舞台は東へ | トップページ | 岩崎陽子『浪漫狩り』第5巻 嵐の前の静けさ 絡み合う男たちの思惑 »

2021.09.26

野田サトル『ゴールデンカムイ』第27巻 解かれゆく謎と因縁 そして鶴見の真意――?

 連載の方ではいよいよ最終章に突入、先日まで全話一挙ネット公開が話題となった『ゴールデンカムイ』。その最新巻ではいよいよ札幌決戦も終わり、物語最大の謎――アイヌの黄金を巡る過去の出来事が描かれることになります。そこで語られる鶴見中尉の真意とは――?

 残る刺青人皮を巡り、札幌ビール工場で三つ巴四つ巴で展開された大乱戦。その結果、切り裂きジャックことマイケル・オストログは杉元らに斃され、上エ地圭二は自滅、そして最後の人皮の持ち主が門倉と判明という、意外な結末を迎えることになります。

 しかし刺青人皮を巡る戦いはひとまず終わったとはいえ、その暗号を解く鍵を握るアシリパが鶴見一派に拉致されたことでまだまだ戦いは終わらず――というところから始まるこの巻。
 前巻で杉元たちを裏切り、一人で鯉登と月島を向こうに回して死闘を繰り広げた海賊房太郎が、あっさり杉元に降参したのは意外なようでいてちょっとらしい気もしますが――房太郎・杉元・白石の三人組が、札幌麦酒の宣伝車に乗って、消防隊に化けて逃走する鶴見一派とデッドヒートを繰り広げるのは、これはまさに本作ならではのシュールな味わいであります。

 そしてその追跡行の果てに、ついにあの男が斃れるのですが――飄々とした、どこか物悲しさを感じさせる態度はそのまま最期の時まで変わらず、妙に仲の良かった白石に後事を託す姿は、実に印象的でした。
(ここで雑誌掲載時は白石のヒドいギャグが入っていたのですが、単行本ではカット……)

 一方、鶴見の車に飛び乗った杉元は、そこで菊田と激突するのですが――菊田のある言葉をきっかけに、「菊田さん?」「「ノラ坊」だったのか?」と呼び合うという意外な関係性がここに来て示されるのにも、驚かされるばかりなのです。


 しかしこの巻のメインとなるのはこの後の展開です。杉元の追跡を振り切り、さらに追ってきたソフィアを捕らえて、郊外の教会に身を潜めた鶴見――その鶴見が、アシリパとソフィアを前に語るその内容こそが圧巻なのであります。

 そもそもかつてウラジオストクに潜伏したウイルク・キロランケ・ソフィアと接触した過去があった鶴見。その接触は、当時長谷川と名乗っていた鶴見の妻子の死という悲しむべき結果となったのですが――その因縁も踏まえて鶴見が語るのは何か。
 それは、アイヌの金塊がどこからやってきたのか、誰が金塊を集めたアイヌたちを殺したのか、ウイルクは何故網走監獄ののっぺら坊となったのか、そして何故キロランケはウイルクを殺したのか――これまで謎となってきた物語の根源、過去にまつわる真実なのです。

 その一つ一つについてはここでは触れませんが、もはや物語の背景設定として所与のものという感があった金塊の出自とその金塊を見つけたアイヌたちの運命、のっぺら坊の誕生は、改めて聞かされてみればあまりもドラマチック、あまりにも重い内容。
 そしてそれだけでなく、それがウイルクの子であるアシリパという存在に密接に関わり、さらにかつて志を共にしたウイルクとキロランケの決別に繋がっていくのには、言葉を失います。

 派手な展開や仕掛けが次々と描かれながらも、その根底には、必ず登場人物の複雑で、しかし十分に理解できる心理が存在し――そしてそれこそがこちらの心を揺さぶってきた本作。
 ここで描かれるものは、その真骨頂というべきと感じます。


 とはいえ、その中でただ一人、その心理状態がこちらの理解を遥かに超えている――一旦理解できたかと思えば、それを遥かに超えていく――のが鶴見中尉。
 この感の終盤で見せたある行動のおぞましさには言葉を失いますが、しかし真に恐るべきは、過去の出来事を客観的に語るようでいて、いつの間にかアシリパに責任と罪悪感を背負わせる悪魔的話法でしょう。

 そしてアシリパとソフィア、さらに密かに鍵穴から伺う鯉登と月島を観客に演じられる鶴見劇場は、劇的な本作のタイトル回収においてその頂点を迎えますが――さてその行き着く先はどこなのか。そして鶴見の前に屈したアシリパを救う者は……
 まだまだクライマックスは続きます。


『ゴールデンカムイ』第27巻(野田サトル 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon

関連記事
 『ゴールデンカムイ』第1巻 開幕、蝦夷地の黄金争奪戦!
 『ゴールデンカムイ』第2巻 アイヌの人々と強大な敵たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第3巻 新たなる敵と古き妄執
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第4巻 彼らの狂気、彼らの人としての想い
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第5巻 マタギ、アイヌとともに立つ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第6巻 殺人ホテルと宿場町の戦争と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第7巻 不死の怪物とどこかで見たような男たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第8巻 超弩級の変態が導く三派大混戦
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第9巻 チームシャッフルと思わぬ恋バナと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第10巻 白石脱走大作戦と彼女の言葉と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第11巻 蝮と雷が遺したもの
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第12巻 ドキッ! 男だらけの地獄絵図!?
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第13巻 潜入、網走監獄! そして死闘の始まりへ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第14巻 網走監獄地獄変 そして新たに配置し直された役者たち
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第15巻 樺太編突入! ……でも変わらぬノリと味わい
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第16巻 人斬りとハラキリとテロリストと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第17巻 雪原の死闘と吹雪の中の出会いと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第18巻 ウラジオストクに交錯する過去と驚愕の真実!
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第19巻 氷原の出会いと別れ さらば革命の虎
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第20巻 折り返し地点、黄金争奪戦再開寸前?
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第21巻 二人の隔たり、そして二人の新たなる旅立ち
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第22巻 原点回帰の黄金争奪戦再開
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第23巻 谷垣とインカラマッ 二人のドラマの果てに
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第24巻 海賊の理想 そして全ては札幌を目指す
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第25巻 殺人鬼の意外な正体!? そして全勢力激突寸前!
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第26巻 ほとんどトーナメントバトルの札幌決戦!

 『ゴールデンカムイ公式ファンブック 探究者たちの記録』 濃すぎる作品の濃すぎるファンブック!

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第8巻 去りゆく人々、そして舞台は東へ | トップページ | 岩崎陽子『浪漫狩り』第5巻 嵐の前の静けさ 絡み合う男たちの思惑 »