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2021.09.01

岩崎陽子『浪漫狩り』第3巻 主人公の原点――考古学という学問の意味、浪漫を持つということ

 昭和初期を舞台に、考古学者にして埋蔵金盗掘指南の猿渡遼太郎が、超古代文明の謎に挑む伝奇冒険活劇の第3巻であります。危険な遺跡での冒険の末に傷を負った猿渡。そんな彼が、考古学に、浪漫に惹かれることとなったきっかけとは……

 超古代文明の遺跡から出土した謎のメダリオンを巡る暗闘に巻き込まれた猿渡。富士の「人食い穴」の遺跡の調査で、待ち受けていた軍と、猿渡の父の弟子を名乗る男・犬神との乱戦の最中、猿渡たちは超古代文明の遺跡に入り込むことになります。
 犬神の裏切りで閉じ込められた遺跡から脱出するため、あえて遺跡を崩壊させるという荒業を使った猿渡ですが、傷を負ってまたも実澄の病院に担ぎ込まれることに……

 という第2巻の展開を受けて始まるこの巻の前半では、猿渡の学生時代――彼が一生残る傷を負い、そして考古学を志すことになった時の出来事が描かれることになります。

 伝説のトレジャーハンターと呼ばれながらも全く家庭を顧みることなく、挙げ句の果てに行方不明となった父に反発してきた猿渡。そのために考古学も宝探しと同じと嫌い、史学を学んできた猿渡は、親友の羽佐間によって、著名な考古学者・楢崎教授の発掘隊に無理やり引っ張り込まれることになります。
 慣れぬ遺跡発掘と周囲のノリに苦労しつつも、教授に発掘の意味を教えられる猿渡。しかし台風の近付く中、周囲の見回りに出た彼は、崖に露出した地層の中に貴重な石器を発見、危険も顧みず飛びつくのですが――崩落に巻き込まれ、身体に大きな傷を負うこととなったのです。

 しかし、傷を負ったことや結局成果が得られなかったこと以上に、自分が貴重な発見を前に衝動的に行動してしまったこと――自分が憎んできた父と同じく、未知のものに焦がれ、「浪漫」を求めてしまう人間であったことに衝撃を受ける猿渡。
 やはり自分は考古学を学ぶことは出来ないと教授に答えようと研究室を訪れた猿渡は、そこで遺跡から出土した土器を見て、あることに気付き……


 本作の「本筋」ともいうべき宝探しや陰謀劇とは一旦距離を置いて描かれる猿渡の過去編。しかしここで描かれるものは、猿渡という人物が、何を思い、そして何を求めて考古学の道を選んだのか――それを描くことで、本作という物語において欠くべからざるエピソードとなっているのです。

 思えば、かつては(羽佐間のような)冒険家の役目だった宝探しは、インディ・ジョーンズ以降、考古学者の役目となった――というか考古学者が宝探しをしても違和感はなくなりました。しかし言うまでもなく考古学と宝探しは重なる領域はあれど異なるものがあるはず。
 だとすれば考古学は何のために、何を学ぶものなのか? 猿渡の悩みは、この問いかけに重なるものであり――そして彼が辿り着いたものは、私が知る中で最良の答えであると感じられます。そしてもう一つ、学問に「浪漫」を持つことは許されるのか、という問いかけへの答えにも……

 さらにこのいわば自分の原点を思い返したことがきっかけで、猿渡が人食い穴に感じていた違和感の正体を――それも実にゾクゾクするようなものを――悟るという展開もまた、素晴らしいというほかありません。
(そしてまた、悩める猿渡に向ける羽佐間の静かに熱い友情がまたイイ!)


 さて、その一方で初登場時から妙に有能過ぎる(猿渡曰く、隠し芸が多い)那珂川の正体――一連の超古代遺跡を巡る事件の背後で暗躍する謎の軍人・篠原少佐の部下であり、陸軍嘱託のトレジャーハンターを探す任に就いている――もいよいよ前面に出つつあるものの、しかし那珂川自身がその任に悩み、危うさを感じさせるのも注目すべき点でしょう。

 那珂川の亡き兄の親友であったという篠原少佐の真意は何なのか。そして彼らの過去に何があったのか――物語に大きな影響を与えるもう一つの過去の物語は、この次の巻にて語られることになります。


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