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2021.09.20

三好昌子『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』 人と妖と自然の美を通じて見つめた足利義政の姿

 京を舞台に、妖と美と情を題材とした物語を中心に発表してきた作者が、足利義政の時代を舞台に描く連作集であります。主人公は絵師・土佐光信――この世ならざるものを感じ取る力を持つ彼の前に次々と現れる妖、人と自然の不思議な物語が描かれます。

 時の将軍・足利義政から、絵の題材として「花の如く匂い、鳥の如く舞う 鬼の如く嗤い、人の世の如く乱れる 我は何ぞや」という判じ物を与えられた土佐光信。その答えに頭を悩ます光信は、密かに考え事をする際に忍び込んでいた御所の梨花殿で、謎めいた老人・唐朱瓶と艶やかな美女・緋扇にその謎を語るのでした。
 その答えは義政の心の中にあると、緋扇の導きで義政の過去を覗く光信。それは幼い頃の義政と先代将軍だった兄・義勝、そして奇妙な言い伝えを持つ瓶にまつわるもので……


 そんな「風の段」に始まる本作は、光信が義政の下で関わることとなった様々な妖異・怪異を描く全七話で構成されています。

 建設中の御所を彷徨う半面血染めの女の怪を探るよう命じられた光信が、呪詛屏風なる怪異の存在を知る「花の段」
 孤独だった少年時代の光信と、捕らえた大鯉を逃すことと引き換えに得た二人の友人の出会いを描く「雨の段」
 義政から四条河原で評判の鳥を操るという鳥舞の見聞を命じられた光信が、舞い手の悲痛な過去を知る「鳥の段」
 出会った者の影を喰らうという妖・影喰らいと出会い、病に倒れた日野富子のため、光信が真相究明を命じられる「影の段」
 筆で紙に打った筆の一点で運勢を占うという男を連れてくるように義政に命じられた光信が、意外な過去の因縁に巻き込まれる「嵐の段」
 血塗られた因縁から音が鳴らなくなり、鳴った時は良からぬことが起きるという小鼓が予感させる京の、日本の未来を描く「終の段」

 そんな本作の主人公とも狂言回しともいうべき立場となる土佐光信は、言うまでもなく実在の人物――大和絵に水墨画の画法を取り入れて様々な作品を残し、土佐派の地位を確立したと言われる人物であります。
 本作はその光信を、人ならざる妖を感じ取り、交流する力を持つ人物として描きます。妖に「心に壁がない」と言われる彼の目は、人の世と妖の世、此岸と彼岸を同時に見つめ、その複雑な世界で描かれる物語をつぶさに見届けることになるのです。

 そしてそんな物語を飾るのは、様々な美の姿。霏霏として降る雪や闇夜に降り注ぐ一筋の月光のような自然の美もあれば、人の手になる絵画や器物といった人造の美、さらには人の外面のあるいは内面の美といった美と――様々な美が、作者一流の筆で描かれることになります。
 そしてその美は、妖の中にも存在し得る、あるいは妖として存在するものでもあります。本作においては、美を通じて、人と妖と自然と――それらが全て同一の世界にあることを描いていると感じられます。


 さて、その光信が表の主人公とすれば、裏の主人公というべき存在は、義政であります。
 室町幕府第8代将軍として疫病や飢饉、そして政治的・武力的紛争が相次ぐ中で、それらに背を向けて美と遊興に耽り、その果てにあの大乱を招いた人物――本作の義政はそのイメージそのままに美に耽溺し、それ故に光信と結び付き、そして彼に(主に妖絡みの)無理難題を押しつける人物として描かれることになります。

 しかし彼が決して単なる暗君ではなく、複雑な――だからこそ絶望的な――内面を持つ人物であることは、冒頭の「風の段」をはじめとして、物語の随所で描かれていくことになります。
 その人物的造形の深さにおいては、正直なところ光信よりも上――というより、義政という極めて複雑な人物の内面を、光信が先に述べたように美を通じて辿っていく物語こそが、本作の本質といえるかもしれません。

 光信という文化芸術の世界に生きた人物を主人公にしていることもあり、本作は歴史上の事件を真っ正面から取り扱う物語ではありません。
 しかしそれでいて本作に極めて濃厚な歴史小説としての味わいがあるのは、この義政を中核とした構造による故なのでしょう。
(もちろん義政抜きでも、「雨の段」のように時代の当事者としての光信を通じて「歴史」を感じられるのですが――「二人の少年」の名を知ったときの衝撃たるや!)


 絵師として頂点を極める一方で、現代にまでその名を残す「百鬼夜行絵巻」を残した光信。本作の結末で地獄の釜の蓋が開いた世において、何を光信が見つめ、そして奇妙な絵巻を残すことになるのか――この先の物語を見てみたいと思わされる作品であります。


『幽玄の絵師 百鬼遊行絵巻』(三好昌子 新潮社) Amazon

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