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2021.09.05

『MARS RED』 第6話「さいごの青空」

 横浜に現れた金剛鉄兵の正体を中島中将に問うため、下水道経由で特務隊本部を目指す秀太郎と山上。一方タケウチとスワは、月島の基地で無数の棺桶を発見する。そして中将から金剛鉄兵の恐るべき正体を聞かされる山上たちと前田。その直後、巨大な揺れが帝都を襲う……

 前回、赤レンガ倉庫から解き放たれたヴァンパイアたちの前に突如現れ、これを次々と殲滅していった装甲服の一団――真の金剛鉄兵。既に夜が明け、ヴァンパイアたちが炎を上げて消えていく時間ですが、零機関の四人のヴァンパイアは、二手に分かれて金剛鉄兵の後を追うことになります。山上と秀太郎は金剛鉄兵に関わっているであろう中島中将に事の次第を問うため本部へ、そしてタケウチとスワは金剛鉄兵たちの後を追って――下水道を辿って向かうのでした。

 そしてようやく本部の前に辿り着いた秀太郎と山上の前に現れたのは、病院から抜け出した前田。ほとんど執念で動いているように動いているように見える前田ですが、その彼をしても、横浜に現れた金剛鉄兵の存在は知らされていなかった様子であります。
 一方、タケウチとスワが辿り着いた先は、あの月島地下の基地。そこで彼らが見たものは、数十個も並んだ棺桶に語りかける中島中将の姿であります。しかし彼らも、その中将がこの月島の地下――それも、かつて岬が閉じ込められていた部屋にルーファスを保護していたことには気づきません。しかし何故中将がルーファスと手を組んでいるのか?

 その理由は月島から本部にやってきた中将が、前田・秀太郎・山上に対して語ることになります。市井から吸血鬼を探し出してリクルートするのは限界がある。そこで効率的に吸血鬼を作り出すために、特務隊のメンバーを、アスクラを使ってヴァンパイアにしたと……
 なるほど、20年かけてたった4人、それもかなり偶然に左右されるようなメンバー確保であったり、様々な危険の伴う海外からのヴァンパイア招請に比べれば、遥かに効率的で、ある意味軍隊らしいやり方ではありますが――しかし、いかにこれ以上戦場で部下を失わないためといいつつ、彼らを人間としては死んだも同然の吸血鬼と変えるのは、矛盾もはなはだしい上に、文字通り人の道を外れたやり方であるのは間違いありません。(前回の出撃シーンで金剛鉄兵たちが赤い液体の入った盃を口に運んでいたのを見るに、あの時初めてアスクラを飲んで吸血鬼化したということでしょうか)

 そんな真実を語った上で、特務隊で最後に一人残った人間である前田に、アスクラを飲むように促す中将。前田は、中将の娘である岬が、吸血鬼になった身でありつつも父の身を案じ、止めるように手紙を遺していたと語るのですが――それに大きく心を動かされた様子もなく、そして前田が自分に従うのを確信しているように、中将は去っていきます。
 残された秀太郎と山上は、人の道に外れていると必死に前田を止めようとしますが、前田は「ヴァンパイアが人間を語るな」と失礼な言葉で一喝。やむなくその力を活かして秀太郎がアスクラを奪うのですが――時あたかも大正12年9月1日11時58分32秒、帝都を大地震が襲います。

 床に空いた穴に飲み込まれて何処かに消えた秀太郎。一方、山上と前田の上には崩落した天井が落ちかかります。自分が無傷であった一方で、崩れてきた天井の欠片に下半身を挟まれて動けない前田を救うため、山上はその力を活かして欠片を取り除いていきます。
 しかし天井が崩れたということは、ヴァンパイアの身を容赦なく焼く外の陽光が降りかかるということ。それを意に介さず、かつての前田との思い出を語りながら作業を続けた山上は、来栖を頼むと言い残して、炎の中に消えることに……


 アニメ版の前半ラストにして、大きな謎の解明、そしてレギュラーメンバーの一人の退場となった今回。ほとんど最終回直前のような展開であります(事実、漫画版では今回のエピソードに当たる部分が終盤のクライマックスの一つ)。
 ただ、アクションはほとんどなく、謎の解説的部分が中心となっていたため、印象としてはかなり静かなものがありますが――それだけに、中島中将の静かな狂気が印象に残ります。(特に、本部を出た後に、自分に敬礼する子供たちに対して「未来の将軍に敬礼!」と大真面目に敬礼を返す辺り……)

 しかし後半はどうなるのか――今は全く予想がつきません。


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