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2021.09.22

さいとうちほ『輝夜伝』第8巻 地上に残る天女!? 天女を巡る男たちの奮闘

 比叡山での月に帰らなかった天女との出会い、そして天女の昇天と、前巻において物語の核心に迫る展開が描かれた本作。ついに月に帰らないで済む方法を知った天女たちの選択は、そして彼女たちを前にした男たちの選択は――意外な展開が続きます。

 葛城の里で自らの過去を知ったものの、治天の君の配下となった大神に最愛の兄・竹速(梟)を殺された月詠。辛うじて竹速は復活したものの人事不省の状態の中、月詠は帝の使者として向かった比叡山で、地上に残った天女と出会うことになります。
 地上で子を成した天女は天に帰らないですむ――すまわち昇天しないですむ。その事実を知ったかぐやと月詠ですが……

 と、思わぬ形で、ある意味少女漫画的な展開となってきた本作。なるほど、いわゆる天女伝説においては、地上の男と子を成した天女は天に帰れなくなるというのが定番ですが――と納得する一方で、しかしそれをおいそれと実行に移せるわけでもないのも、また事実であります。
もっとも、かぐやと帝の間には少なくとも障害はないように思えますが、やはり、こう気持ちというか覚悟というものが……

 しかしさらにややこしいのは、言うまでもなく月詠の方であります。彼女が恋うる竹速は今なお半死半生の状態。そして二人に複雑極まりない想いを抱く大神は、今なお形の上は治天の君の配下、そしてかつての親友である凄王は彼と敵対する月詠サイドにあるのですから。

 そして天女と聞いたら黙ってはいられないのが治天の君。天女の像を作らせようと、仏師である比叡山の双子の天女の子孫を召し出した治天の君は、像のモデルに月詠を使い、かつて自分が愛した天女の残した服や装飾品を身に着けさせて……


 月詠とかぐや、二人の天女が中心となる物語だけに、どうしても彼女たちに振り回される形となってしまう本作の男性陣。しかしこの巻ではむしろ、後述のように月詠が身動きが取れない状況ということもあり、彼らの奮闘ぶりが印象に残ります。

 その中でも特に目立つのは、やはり大神でしょうか。月詠を恋するあまり敵対する立場となり、竹速の仇という立場となった大神ですが――しかし今回、竹速が凄王のもとで匿れた後も彼に迫る治天の手の者に対し、成り行きとはいえ思わぬ行動を取ってしまうのですから。

 思えば月詠の前に竹速が現れる前は、真っ直ぐな態度で月詠に接していた大神。それが彼の元々の姿だとすれば、恋に迷った今の姿を何と評すべきでしょうか。その点、物慣れた凄王の態度が、ある意味救いと言えるのかもしれませんが……
(月詠から「口止め料」を払われてかえってダメージを受けるのが、もう何というか……)

 そしてもう一人印象に残るのは(意外にもというべきか)治天の君であります。本作における最大の悪役として、ひたすら天女たちに執着する姿が描かれてきた治天ですが――その様々な欲望に塗れた姿は、ある意味、男性というものの悪しき側面の象徴のようにすら思えます。
 しかし先に述べたように、彼がかつて愛した天女の衣をまとった月詠に対して向ける眼差しは、普段の彼の傲岸な態度から予想もつかぬような、真摯で、優しさとどこか哀しみに満ちたものだったのですから……

 考えてみれば天女に去られた帝である治天の君は、ある意味「竹取物語」の帝のその後の姿――すなわち本作における帝のあり得るかもしれない未来の姿といえるのかもしれません。
 そんな彼の姿から、天女に惹かれた者の哀しみが感じられるのは、むしろ当然というべきでしょうか。
(ここで胸に刺さる、凄王の「天女に…のめり込むもんじゃあないな」という言葉……)

 そしてまたここで明らかになった、月詠の母が手にしていた数珠の持ち主との思わぬ因縁も、大いに気になるところですが……


 といいつつ、月詠にかつての天女の姿を見た末、我が物としようとして拒まれれば監禁、ひたすらしつこく迫るのが、やはり治天という男。
 そんな月詠の危機に対して、これまでそれぞれの形で彼女を守ってきた三人の男たちが、呉越同舟立ち上がる! という実に盛り上がる形で、この巻は終わることとなります。

 どうやら次の巻でも、天女たちを巡る地上の男たちの方のドラマも、大いに盛り上がりそうです。


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