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2021.09.19

梶川卓郎『信長のシェフ』第30巻 ようやく繋がった道筋? そしてケン生涯の一大事

 ついに明らかになったヴァリニャーノの狙いを前に、あまりにも意外な決断を下す信長。それを耳にした光秀もある決意を固めます。その一方でケンの身の上にも重大な変化が――といよいよクライマックスが近いことを予感させる『信長のシェフ』第30巻です。

 これまで西国、そして畿内で怪しげな動きを見せていたイエズス会。その中心人物であるヴァリニャーノとついに対面した信長は、彼から、そして彼が連れてきた黒人従者――ヤスケから、得た情報から、ついにイエズス会の裏の目的を知ることとなります。
 それは世界領土分割体制下のポルトガルとスペインの領土争いにおいて、軍事大国たる日本のキリスト教徒をポルトガルの兵として利用し、日本を支配下とすること――しかしポルトガルのスペイン併合が、さらに事態を変えていくことになります。

 追い詰められ、自ら欧州の真の目的が「明国征服」であると明かしたヴァリニャーノ。そして彼は、信長に明への出兵を依頼するのですが――信長は光秀に対し、「わしは明に出兵しようと思う」と意外な言葉を……

 そんな前巻の衝撃の結末を受けて始まるこの巻。明のついでに日本を侵略しようという南蛮に対して、逆に南蛮に侵略するための第一歩として明を狙う――いわゆる「唐入り」を狙うと信長は宣言したのであります。
 しかしいかに日本を守るためとはいえ、これが無謀な企てであり、そして後世に悪名を残すことは間違いありません。それを知ってしまった光秀は何事か決意を固め……

 というわけで、長きに渡り描かれてきたイエズス会との対峙が、ここに至ってついに「あの事件」に繋がっていく道筋が見えてきた本作。しかし(日本人を)誰も悪人にしないためとはいえ、やはり陰謀論めいた展開――最近妙に喧伝されている説とはいえ――には大きく違和感が残ることは否めません。
 そして流石に信長の決断にも無理がありすぎるとしか思えないのですが――という点については、これこそが光秀の「動機」になっているのですから、この点は巧みと言うべきかもしれませんが……

 もっとも、これが「あの事件」の真相と考えるのは早計にすぎるかもしれません。以前意味有りげに描かれたケンの父が現代で見つけたもの――そしてその父についてケンが何かを思い出そうとしていることは、おそらくこの先に影響を与えるのでしょう。
 そしてそのケンも、信長の南蛮侵攻に際し、料理外交のための貢献を求められることに――という展開には流石に驚かされますが、冷静に考えれば、これは今までも散々やってきたことではあります。

 何はともあれ、ようやく安土を、日本を去ることになったヴァリニャーノ。正直なところここまで引っ張りすぎた感は否めないのですが――そのラストに待っていたのは、ケンの生涯にとっての一大イベントであります。作中でもツッコまれているように、まだだったのか!? という感じではありますが、何にしろ実にめでたい展開。信長の珍しいニヤニヤ笑い――はともかく、粋なはからいにこちらも嬉しくなります。
 そしてもちろんこれは単なる慶事にとどまらず、ケンが真にこの時代の人間になる決意を固めたという証明でもあるわけですが……(そこに重ねて、もう一人の異邦人であるヤスケの決意を描くのも巧みであります)


 しかし信長の天下一統に向けてはまだまだ数々の障害が残ります。その最大の一つ――武田との決戦に信長が動く中、信忠からある依頼を受けるケン。
 一方、日本を去る途中に伊予の一条家を訪れたヴァリニャーノは、そこでかつてのケンの同僚、望月と出会い――と、まだヴァリニャーノが出てくるのか! とツッコミつつ、次巻に続きます。


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