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2021.10.05

石川優吾『BABEL』第9巻 攻防死人戦線 そして決戦の地、その名は……

 戦国時代、海の向こうから襲来した「魔」と「八犬士」の戦いを描く物語もついにクライマックス。時空を超えて現れた「千里眼」と合流した信乃たちの前に現れるのは、生ける屍の群れ、群れ、群れ。絶望的な物量差に苦しむ信乃たちにはたして未来はあるのか……

 恐るべき魔の力で桶狭間を制した織田信長に抗するため、伏姫の託宣を受けて「千里眼」を求め、諏訪を訪れた信乃・左母二郎・浜路。そこで彼らが出会ったのは、現代人の格好をした「千里眼」の少年・孫兵衛と、対馬と名乗る男でした。
 時空を超えて現れた彼らの事情をほとんど聞く間もなく、襲いかかる生ける屍の大群。追い詰められて諏訪大社に立てこもることになった五人の運命は……

 というわけで、作者の前前作『スプライト』とまさかのクロスオーバーを遂げることとなった本作。『スプライト』以来――というべきか、黒い水に呑まれて時間を彷徨い続ける孫兵衛と対馬ですが、本作においては二人も八犬士(!)であることが語られ、信乃たちの同志であるというとんでもない事実が判明しました。

 しかしそれに驚く間もなく、玉梓いや今の名はお市(!)に率いられて絶え間なく襲撃を続けてくる生ける屍の群れ。完全に包囲され、ついに諏訪大社に追い込まれた一同ですが――そこで屍たちを諏訪大社の結界が守ることになります。
 と思えば、屍に混じって生身の織田兵(可哀想に……)が結界を超えで攻撃を仕掛け、死者と生者の波状攻撃に苦しめられる信乃たち。そこに現れた文字通り天の助けも玉梓(お市)の魔力に砕かれ……

 と、一進一退の聖魔の攻防。生ける屍軍団vs現代兵器&剣術&神力というのは、一歩間違えればあまりにも何でもアリすぎる戦いになりかねませんが――これまでも各エピソードのラストでは、驚くほどに豪快かつスケールの大きな死闘を、超絶の画力で描き切ってきた本作のパワーはここでも健在です。
 特に、屍の浪裏vs○○というビジュアルのインパクトは凄まじく、その後に描かれる、諏訪といえば――のアレによる超突撃と共に、この巻の白眉とも言うべきでしょう。

 現実を超え、有り得べからざる光景を確かなものとして生み出す画の力を、ここでも目の当たりにさせていただきました。


 そして奇跡的に死線を潜り抜け、比叡山に帰着した信乃たち。そこで孫兵衛と対馬は、日吉大社の宮司からあることを問われることになります。それは比叡山を取り巻く黒い水――そう、これまで幾度となく孫兵衛と対馬を呑み込んで時を超えた、いや時そのものである黒い水であります。

 どうやら『スプライト』の後も幾度となく時を超え、信長に挑んできたらしい二人。しかしそれでも歴史は変わることなく、そしてそのたびに比叡山も信長によって炎に包まれてきたというのですが――しかしこの世界は、この時間は、これまでの繰り返しと同じものなのでしょうか。
 少なくとも二人の反応を見れば、異国の魔もこの国の聖なる力も、そして八犬士も、初めて目の当たりにするのは間違いないようであります。

 そしてそれを裏付けるように、安土に出現する、これまでのいずれの時にも存在したことがなかった建造物。その姿は、まさかあの……


 ついにタイトルを回収して出現した最終決戦の地。そこで待つものは何か、そしてそこで何が描かれるのか――八犬士がまだ揃っていない気もしますが、次巻、最終巻を見届けたいと思います。


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