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2021.10.21

皆川亮二『海王ダンテ』第13巻 さよならダンテ そして物語から歴史へ

 ついにダンテの冒険も、この第13巻にて結末を迎えます。人を超えた力を求めた末にに、己の肉体をモーセに譲り渡して海王と化したダンテ。ついに完全復活を遂げた地球意志の代行者・モーセの力の前に、人間は滅びるしかないのか? そしてダンテの運命は? 最後の戦いが始まります。

 地球意志の代行者にして裁定者たるドゥランテ――その一人であるモーセの魂の器として、育ての父であるコロンバスの悪魔の実験の末に、自分が生み出されたことを知ったダンテ。
 しかしそんな残酷な真実にももはや彼の心は揺れない――はずが、祖国イギリスの清での非道な行いを知り、それに対する行動がきっかけで捕らえられ、残酷な拷問の果てに親友・パトリックの命が奪われたことから、ダンテは己の無力さに絶望することになります。その果てに彼は力を求め、己の中に眠るモーセに肉体の主導権を譲り渡すことに……


 という最悪の展開で終わった前巻。いよいよ完全復活を遂げた海王ダンテ、いや魔人モーセは、その超絶の力を振るい、周囲一帯を瓦礫の山に変えるのですが――もちろんこれは単なるウォーミングアップに過ぎません。
 彼の真の目的は、三千年前に滅ぼし損ねたアトランティスの壊滅であり――それだけでなく、自らの産みの親である地球意思の元に帰還し、この地球上の文明そのものをリセットすること。つまり、ここでモーセを止めることができなければ、今の人間の文明そのものが滅びる――その絶対の危機を阻む者が果たしているのでしょうか?

 いや、まだ人間は絶望していません。そこに駆けつけたのは、地球脱出を目前としていたアトランティスの民たちに、ナポリオと「構成」の書、そしてオルカとティーチ、アルビダら不死者たち。さらにダミアンやジョゼと「生命」の書が、自分たちにできることを為すべく動き出します。
 そしてダンテにとっては常に冒険の相棒であった「要素」の書が、さらには人類に復讐するための道具としてダンテを生み出したはずのコロンバスまでもが、モーセを阻み、ダンテを助けるために立ち上がったではありませんか!

 というわけで、ここに至り展開するのは、これまで登場したメインキャラ総登場での大決戦。それぞれに新兵器やパワーアップ(絶対アレ、再登場すると思った……)を引っさげて駆けつけた、個性的極まりない、そして何よりも頼もしい面々の呉越同舟の戦いには、胸が熱くならないはずがありません。
 特にコロンバス――人間に絶望した末にこの事態を招いた、諸悪の根源ともいうべき人物が、その夢が叶ったまさにこの時、「親」としての顔を見せて立ち上がる姿は、強く印象に残ります。矛盾といえばこれ以上矛盾したものはありませんが、それこそが人間であると、彼の姿は示しているのですから。

 しかしもちろん、この戦いの主役はダンテ本人であります。最後の敵がダンテの肉体を使っている以上、その復活は、そして肉体の奪還は容易なことではありませんが、しかし彼自身が、彼自身の魂が復活し、そしてモーセの魂を打ち破らなければ、この戦いは終わらないのですから。
 はたして、この戦いの行方は如何に、そして最後に待つものは……


 と、世界を股にかけた大冒険活劇の結末に相応しいド派手な大決戦が描かれたこの最終巻。もちろんそれだけでなく、最後に勝つものは人間の魂――人間の善き部分を信じる魂というのも、定番ではありますが、やはり気持ちの良いものがあります。
(とはいえ、ダンテの意識を蘇らせるシチュエーションは、その結末も含めて既視感があるような……)

 そしてその果てに待ち受けている結末は、正直なところ少々意外、かつ大いにほろ苦いもの――というかモーセはもうちょっとサービスしてくれても――ではあります。
 しかしこれらは全て、ダンテの物語からの決別を示すためのものなのでしょう。そう、本作の結末は、ダンテという少年の冒険が終わり、ホレイショ・ネルソンという人物の歴史の始まりを告げるものなのですから……


 ネルソンやナポリオといった実在の人物を中心に据えつつも、自由奔放に大伝奇活劇を展開してみせた本作。歴史と伝奇の間を巧みに縫ってみせた快作でした。


『海王ダンテ』第13巻(皆川亮二&泉福朗 小学館ゲッサン少年サンデーコミックス) Amazon

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