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2021.10.12

『鬼滅の刃 無限列車編』 第1話「炎柱・煉獄杏寿郎」

 無限列車の周辺で続発する行方不明者の調査に向かった炎柱・煉獄杏寿郎。無限列車が整備中の工場を訪れた煉獄は、そこで整備士を襲う鬼と遭遇、これを撃退するが、次に鬼は先に煉獄が会っていた弁当売りの老婆と孫娘を狙うのだった。超高速で移動する鬼に対し、煉獄は……

 昨年超ヒットした『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』が、全7話のTVアニメに再編集される――それも第1話はアニメオリジナルの煉獄主役編と聞いた時、本当に正直なことを言ってしまえば、今更という印象がありました。
 しかしいざ放送された第1話を見てみれば、これがなかなか出来が良い補完エピソードだったのに驚かされました。それも補完しているのは物語の内容だけでなく……


 開幕早々、蕎麦屋でおろしそばを手繰り、「うまい!」を炸裂させる煉獄。近頃40人以上もの人々が行方不明になっている無限列車の調査に来た煉獄ですが、沿線では切り裂き魔の被害も出て、前夜も彼らは出動したばかりの様子です。
 そんな物騒な状況に加えて無限列車の運行も止まり、客も減って景気が悪いという店の親爺。しかし煉獄の豪快な食べっぷりには気を良くしてお代わりの時にかきあげをサービス――そばともども妙に作画が良い、飯テロ展開であります。

 さて、そこにやってきた隊士から最新の状況を聞き、まずは調査のため駅に向かった煉獄。そこでも事件の余波で周囲が店を閉めている中、煉獄は唯一開けていた弁当屋の老婆・トミと、手伝う孫娘のふくと出会うのでした。
 そこでド直球に鬼について尋ねる煉獄にふくはドン引きですが(一方トミは意味ありげな態度を……)、この騒動で弁当が売れなくなっていると聞いた煉獄は全部お買い上げ。隊士たちのおみやげに持たせると同時に、自分は無限列車が整備されている工場に、役所からの差し入れと称して潜入するクレバーなところをみせることになります。

 さて工場に入ってほとんどを情報を集める間もなく早速起きる騒動。何と若い整備士が、鬼に捕まっているではありませんか。スピード自慢を自称する鬼は、整備士を人質にとって得意顔ですが、もちろん煉獄はそれをものともせず、あっさりその腕を切って人質を救出。しかし逆恨みした鬼は、煉獄と出会った弁当屋を殺すと宣言、猛スピードで駅に向かうのでした。
 そうとも知らず、早朝に弁当を運んでやってきたトミとふくに襲いかかり、ふくを捕らえる鬼。しかしそこに駆けつけた煉獄がふくを救出! 一体どうやってと驚く鬼ですが、柱に不可能はありません。もちろん鬼の悪あがきなど及ぶはずもなく、煉獄の炎の呼吸 壱ノ型 不知火が鬼の頸を断つのでした。

 そんな煉獄の姿に、再び助けてくれたと歓喜の涙を流すトミ。そう、彼女は20年前にも、燃える炎のような髪の剣士によって、鬼から救われていたのです。そして煉獄は、それは自分の父であると語るのでした。
 そして煉獄のもとに入る無限列車運行再開の知らせ――倒した切り裂き魔の鬼がとても40人以上の人を食ったとは思えないと考える煉獄は、無限列車に乗ることを決意します。そんな彼を見送るトメとふくの「近くに来たらまた寄ってください」という言葉に、「あなたがたのことは父に必ず伝えます。喜ぶことでしょう』「ではお元気で! また会いましょう」と返して無限列車に乗り込む煉獄。二人から買った大量の牛鍋弁当を手に……


 というわけで、原作の頃から気になっていた、あれだけ行方不明者が出れば普通は運行停止になるのでは? という疑問や、(これは言われてみれば――というレベルですが)うまいうまい食べていたあの弁当はどこから、という点に答え、快男児・煉獄杏寿郎の活躍をたっぷり見せた上に、彼の父のありし日の姿まで語ってみせた今回。
 ラストに交わされる何気ない会話が、グッと胸に刺さる構成も見事であります。

 それにしても今回、冒頭に述べたとおり補完エピソードとして実によくできていたと感心しましたが、それと同時に驚かされたのは、作中の幾つかの描写でした。
 鬼が引き起こした騒動のあおりで店に客が入らなくなった人々や、鬼に襲われて心身に後々まで残る深い傷を追った人々、そして鬼に襲われた人々の下に駆けつけ、これを救おうとする鬼殺隊士――これらの姿が、何を指すかは明らかでしょう。

 昨年、劇場版を観た際にも、ある意味理不尽な物語と、そんな中でも全力を尽くして人を救う煉獄(そしてそんな彼のことを涙ながらに肯定する炭治郎の)姿に、これは「今(求められているもの)」を描いた物語であると感じました。
 その想いは、このTV版第1話で描かれたものを観て、より一層強くなった次第です。


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