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2021.10.26

赤名修『賊軍 土方歳三』第5巻 会津候暗殺作戦! 救い主は誰だ!?

 戊辰戦争における土方歳三と新選組の奮戦を通じ、歴史に残らぬ陰の戦いを(も)描く本作。会津を封じるために薩摩の大久保利通が打つ手に土方は対応することができるのか。そして劣勢が続く旧幕府軍に訪れた、意外な挽回の機会とは――この巻でも意外また意外な展開の連続であります。

 寛永寺の輪王寺宮を東武皇帝として戴く東北王朝の樹立により、新政府軍と対等の立場に立とうとする旧幕府軍の企て。薩摩の陰謀により、市村の奮戦虚しく東北王朝の太政大臣・九条道孝が奪還されたことにより、状況は大きく不利に傾きますが、さらに薩摩の攻勢は続きます。

 旧幕府軍、そして奥羽越列藩同盟の中核である会津藩を潰すため、現会津藩主である松平喜徳の暗殺を目論む大久保利通。この計画を察知した土方は、ある策を以てこれに対抗することになるのですが――その策自体はそこまで意外ではないものの、それに協力する人物には少々驚かされます。
 なるほど、既に顔見せは済ませているのですが、幕末ファン向けの目配せと思ったものがここで生きるか――と感心すると同時に、会津士魂の凄まじさを見せつけられた思いがあります(尤も、それがこの後の悲劇を招くのですが……)

 しかし大久保の策は、実はここからが本番。喜徳暗殺は実は陽動、土方が安心したその隙を突いて大久保が狙う真の標的とは、そうあの人物であります。土方も沖田も山口も動けず、完全に空白になった会津に迫る魔手に、如何に抗するのか――と、この辺りの展開は大いに気を持たせてくれます。
 が、そこで颯爽と登場する救い主とは――というのが、考えてみればそれしかないという答えなのですが、やはり豪快かつ大いに盛り上がる、実に本作らしい展開。さらにそこに添えられた土方の○○が――などと来たら、ここまでやるかと思わずニッコリしてしまうほかありません。

 そしてその助っ人もさることながら、やはり痺れるのは、その薩摩の陰謀に関わる情報を引っさげて登場したからす組・細谷十太夫の存在感であります。前巻でも颯爽と市村を救出しましたが、今回もほとんど仕事人のようなスタイルで傍若無人な官軍を片付けたと思えば、何と土方とは過去に意外な接点が――と、美味しいところを総取りのこの人。
 元々主役級に面白い人物ですが、ここでの勇姿には、まだまだその活躍を見てみたい、と思わされてしまうのです。


 しかし、裏の戦いが丁々発止と繰り広げられる一方で、表の戦いでは奥羽越列藩同盟はどうにも苦戦。しかしそんな土方の前に、意外な人物が登場することになります。その名は「平松武兵衛」――わかる人にはわかるその人物が持ってきたのは、何とあの鉄血宰相ビスマルク率いるプロシア軍という驚くべき援軍の報でありました。
 あまりにも意外すぎるものの、確かにこれほどの助太刀が加われば大逆転も夢ではありません。しかし大逆転にはそれなりの対価が必要。それは――というところで、後のあの出来事に繋がって来そうな展開も興味深いのですが、まず土方は目の前の苦境をどうにかしなけれればなりません。

 薩摩の伊地知と土佐の板垣(これがまたびっくりするほど美形)、新選組憎しで手を組んだ猛将二人の総攻撃の前に、新選組は潰走寸前。それでも状況を打開すべく奔走する土方ですが、これに対して松平容保はある決断を下すことに……


 と、個々の局面では土方たちが奮戦するものの、歴史の流れはもちろん変えるべくもなく、あの悲劇へと突き進んでいく物語。はたして土方はその悲劇とどう向き合うのか、そしてどう乗り越えるのか?
 本作らしい意外史に期待したいところですが、さて……


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