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2021.10.07

篠原知宏『壬生の狼、猫を飼う 新選組と京ことば猫』第1巻 斎藤一、猫のおとうに!?

 幕末の京において、「壬生の狼」と恐れられた剣客集団・新選組。その中でもある意味最も剣客らしい男・斎藤一が、ある日天涯孤独の子猫と出会ったことから始まる、時にシリアス、時にコミカルな時代漫画の第1巻であります。

 新選組三番隊隊長として恐れられ、敵はもちろん、隊規を乱した者にも冷徹に刃を振るう斎藤一。彼が目をかけていた青年・小林が隊を脱走した際も感情を見せずに粛清の刃を振り下ろした斎藤は、その直後、どこからか迷い込んだ黒い子猫に懐かれ、一時の安らぎを得るのでした。

 実はこの黒猫、まだ幼いにもかかわらず両親を失い、斎藤の鋭い目に彼を父だと思いこんで「おとう」と懐くことになったのですが――かくてマルと名付けられ、斎藤の世話で屯所に居着くことになった子猫。
 しかし個性的すぎる新選組の面々と関わる中で、マルは(というか隊士の側が)次々と騒動を引き起こして……

 漫画の題材としては鉄板のうえに、他の題材との組み合わせで様々なバリエーションが作り出せる猫。
 当然というべきか、時代ものと猫の組み合わせも、多々あるわけですが――本作の場合、超実戦派集団として知られる(そしてそのわりにキャラとして個性派揃いでどこか親しみを持たれやすい)新選組と組み合わせたのが、ユニークな点でしょう。
(新選組+猫というアイデア自体は本作が初めてというわけではありませんが……)

 そして本作の場合、その猫の飼い主、というか親代わりとなるのが斎藤一というのが、また面白いところであります。

 近藤・土方・沖田には知名度やキャラクター性で譲るものの、どこか他の隊士とも異なる個性を感じさせる(そして異なる足跡を歴史に残した)斎藤。
 フィクションの場合、大体において生真面目か悩みやすいタイプとして描かれることの多い斎藤ですが――そして本作もその系譜に連なるのですが――そんな彼が子猫相手に和んだり悩んだりするギャップは、なるほどなかなかインパクトがあります。(特に本作の斎藤の場合、鉄面皮で猫にデレるのが可笑しい)

 その他の隊士も、子猫でも容赦なく笑顔で刃にかけかねない沖田、猫好きながら可愛がり方が雑な永倉、(猫を)食うことしか考えてない原田、ゴッツい体に似合わず猫には超デレる島田と、隊士たちのある種共通的なイメージを踏まえつつ、猫と化学反応を起こしているのが楽しいところです。
 しかしおとんがいればおっかあもいるわけで、マルがおっかあと思い込んだのは――という相手は、正直なところ「え?」と戸惑う人物なのですが、この辺りはこの先の展開に関わるのでしょう。
(先のことを予想するのも野暮ですが、この人物といい、沖田との仲の悪さといい毛の色といい、もしかしてこの猫があの……)


 と、なかなか楽しい本作なのですが、個人的に(あくまでも個人的に、ですが)どうしても引っかかるのはマルのビジュアル。
 漫画としての表現であること、また物語の設定的にもこうなるのはわからないでもないですが、やはりこの姿はデフォルメ(擬人化)し過ぎではないかなあ――と強く感じます。

 猫は猫として自然のままで十分可愛いのですから、あまり人の手を加えなくても――と、だんだん自分でも何を言いたいのかわからなくなって来ましたが、ある程度のリアリティがあった方が、かえって人間側のドラマとギャップが感じられたのではないか、とは感じた次第です。


 何はともあれ、この第1巻ではマルが思わぬところで窮地に陥ったところで幕となった本作。
 ここで登場するのは、チラッと出てきた名前からしてあの人物ではないかと思いますが――だとするとここから(こんなきっかけで)あの大事件が露見したりするのかな、と予想するのもなかなか楽しいところではあります。


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