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2021.10.23

高橋留美子『MAO』第10巻 幽羅子の罠、白眉の目的

 ついに単行本巻数二桁に突入しつつも、まだまだ謎は深まるばかりの大正伝奇ホラー『MAO』。この巻では謎の妖女・幽羅子と摩緒との因縁が、そして新たな敵との死闘が描かれることになります。次々と現れる新たな術者の陰にいるのは誰か、そしてその目的とははたして……

 金の術者・白眉の配下である呪具・傀儡の針使いの少女・かがりに捕らわれた菜花。彼女はかがりの背後に潜んでいた謎の女・幽羅子と対面し、その過去を聞かされることになります。
 幼い頃から地下に幽閉され、御降家を狙う呪いを引き受ける器として生かされてきた幽羅子。そんなある日、偶然封印から逃れて外に出た彼女は摩緒と出会い、いたわりの言葉をかけられていたのであります。

 前巻で語られた部分も含め、あまりの無残さに粛然とならざるを得ない幽羅子の壮絶な過去。そしてそんな彼女にとって、摩緒が示した優しさが――たとえ彼がそのことを完全に忘れていたとしても――唯一の支えであったことを知った菜花は、その想いの深さに圧倒されることになります。

 そんな幽羅子に対して、読者であるこちらも思わず同情の念を掻き立てられてしまうのですから、菜花のこのリアクションも当然というべきかもしれません。しかしそこで、華紋が意外な言葉をかけることになります。
 そしてその言葉が明らかにする罠(?)の存在には、自分もまた見事にそれに囚われただけにアッと驚かされますし、そしてそれを飄々と解き明かしてみせる華紋のキャラクターも面白い。本作の一筋縄では行かない内容を、ここでも再確認させられました。


 そして摩緒への菜花のモヤモヤは変わらぬまま、帝都で起きる新たな怪事件――それは、全く火の気のないところで、人間一人があっという間に焼死体と化してしまうという奇怪な人体発火事件であります。
 その背後に新たな呪詛の存在を感じ取り、犯人が残した手がかりからその正体に迫る摩緒と百火。しかしそれは新たな戦いの幕開けに過ぎなかったのです。

 ――これまで作中に登場してきた術者は、大きく二つに分かれます。一つは平安時代から生き続けてきた、摩緒と五人の兄弟子たち、御降家直系の人間(そこにはもちろん、前巻で奇怪な過去が明らかになった夏野も含まれます)。
 もう一つは「いま」すなわち大正時代の人間でありつつも、御降家の呪具の力を得たかがりや双馬、そして今回登場した新たな術者のような人々であります。

 この後者に属する者たちが、いずれも摩緒や菜花たちと敵対していることを考えれば、その背後にいるのが、白眉(と不知火)であることは明白でしょう。しかし白眉がこのように配下を増やすだけでなく、摩緒に眠る猫鬼の力をも手に入れんとしてきた、その真の目的は何なのか――それがここで明らかにされることになります。
 その真実には疑問(何故今なのか、という点など)もあるものの、なるほどと納得させられるものであることは事実。しかし同時にそれは、断じて許してはならない目的でもあります。

 そしてそんな白眉という人物の何たるかが明らかになっていくと同時に、彼のライバルというべき百火というキャラクター像も深堀りされていくのも、また面白いところであります。
 これまでの出番においては、喧嘩っ早くてお調子者で、親しみやすいけれどもちょっと頼りにならないという、いかにも高橋留美子作品の定番キャラという印象の百火。しかしここで描かれる彼の姿とその過去は、そんな印象を少しだけ変えてくれたようにも感じられます。


 この巻でもまた少し謎が解け、そして同時にさらに物語世界に厚みが増してきた本作。しかしまだまだ謎は多く、そして敵の数も尽きません。
 この巻の終盤で描かれる「血の流れない」殺人事件、その犯人もまた、摩緒たちに敵対するものなのか――力を増すばかりの白眉陣営に、この先はたして摩緒たちが抗し得るのかも含め、気になることだらけの本作であります。


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