三好昌子『朱花の恋 易学者・新井白蛾奇譚』の解説を担当しました
本日発売の『朱花の恋 易学者・新井白蛾奇譚』(三好昌子 集英社文庫)の解説を担当しました。江戸時代の実在の易学者・新井白蛾を主人公に、伝説の占術書を巡る恋と戦いを描く、作者ならではの愛と伝奇の物語であります。
江戸を離れ、京で石田梅岩のもとに寄宿する若き儒学者・新井白蛾。彼はふと立ち寄った神社の廃墟で、朱色の衣をまとったこの世のものならぬ美女・朱姫と出会い、「秘易」と呼ばれる奇妙な算木を手に入れることになります。
以来、易学に熱中して優れた易者として知られるようになった白蛾の耳に、奇妙な噂が入ります。それは遺恨のある家に不動明王の札が投げ込まれ、金を払わなければ火をつけられるという明王札騒動――折しも白蛾は、札を投げ込まれたという大店の娘から、占いの依頼を受けるのでした。
占いのために明王札について調べ始めた白蛾の前に現れる、奇妙な因縁の数々。この事件が、自分が秘易を手に入れた廃神社でかつて起きた火事と繋がっていると知った白蛾の前に、謎めいた人物が次々と現れます。
そして秘易を狙って襲い来る謎の一団。数々の謎を追う中、白蛾は自分自身と秘易にまつわる因縁の存在を知ることに……
という本作は、本書の帯にあるように、これまで「美」と「奇」と「謎」の糸で「心」を織りなす物語を描いてきた作者ならではの物語であります。
物語に散りばめられたこれらの要素がつなぎ合わさる中で、巨大な因縁の姿が浮かび上がり、その中で主人公が己の成すべきことを知る――という展開は、作者の作品に共通するシチュエーションですが、本作は特にその性格が強く現れているように感じられます。
実は本作は、恋愛もの的なタイトルではありますが――そして実際に、恋愛の要素が大きい物語ではありますが――それと同時に、極めて伝奇度が強い物語でもあります。それでいて、主人公は白蛾という学者――それも易学者という点が非常にユニークな点なのですが、この解説では、史実での白蛾の姿に触れるとともに、そんな白蛾を中心に据えた本作が目指すものについて紹介してみました。
冒頭に述べたとおり、愛(ロマンス)と伝奇(ロマンス)の二重のロマンスを描いた本作。実は伝奇ものとしてもちょっと驚くほどスケールの大きな物語であり、その点からも大いにおすすめできる作品です。
ちなみに、先に述べた「美」と「奇」と「謎」の糸で「心」を織りなす物語という言葉は、私が解説の中で使った表現。それを帯に採り上げていただき、「三田主水さん激賞」とまで書いていただいたのですが――いざ自分の名前がこうして帯に出てみるとアレですね、やっぱり嬉しいですね。
(多くの人にとっては、「誰これ?」と言われるかと思うと、身が縮む想いでもありますが……)
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