出口真人『前田慶次かぶき旅』第8巻 薩摩上陸 馬糞と二人の猛将の再会と!?
肥後での騒動を解決し、次なる目的地・薩摩に向かうこととなった前田慶次一行。関ヶ原で敗れながらも徳川に屈することなく、独自の気風を持ち続ける薩摩で慶次を待ち受けるものとは?
加藤清正を狙う天草衆を退治し、お供の権一をはじめ、兵庫・左近・宗茂とともに、海賊エンリケを子分にして薩摩に乗り込んだ慶次。しかし早速金髪の女剣士・夕月やその師・東郷重位、さらに薩摩の名物男・中馬大蔵と騒動を起こし……
と、どこに行っても相変わらずの慶次ですが、今度の舞台である薩摩といえば、武士道の魔境・佐賀と並ぶほどの修羅の国。ただでさえいくさ人たちがゴロゴロしていたこの時代でも、特に面倒くさ――いや剣呑な連中揃いという印象があります。
そこに敢えて踏み込んだ慶次の目的は、かつて関が原の戦で敗れながらも敵中突撃を敢行して生還した猛将・島津義弘と会うこと。今は帖佐に暮らす義弘のもとに向かうため、強引についてきた夕月を加え、慶次たちは再び船出することになります。
(ここで追いかけてきた夕月があまりに必死の形相のため、宗茂や左近が有事かと勘違いするのが妙におかしい)
ここでいい人ぶりをアピールしたエンリコが、ママの味のパンフォルテを作ったはいいけれども、見かけがどう見ても馬糞で――というベタなギャグが入ったかと思えば、帖佐で夕月に絡んできたタイ捨流の剣士たちに、いくさ場では馬糞を食うと慶次が言い出してパンフォルテを食い、相手には本物を食わせるというとんでもない展開になるのには、ある意味感心。
冷静に考えるとパンフォルテって丸く作るか? と思いますが(この時代はどうだったのか、信長のとこのシェフならわかるかもしれませんが)、何とも人を食ったというか人が悪い慶次のいたずらは、いかにも「らしい」と感じないでもありません。
(それにしてもここでの左近のコメントが妙に生々しいのもおかしい)
実はこの巻、このくだりが一つのクライマックスであったりして、それはそれでどうかと思わないでもありませんが――しかしこの騒ぎを受けて、「鉄砲で撃ち殺しましょうか!」とか「殿の指先ひとつの合図で討ち取ります!」などと薩摩の武士たちが言い出すのは、これまた実に「らしい」というべきでしょう。
さて、そんな騒動を挟みつつも、この巻の後半ではもう一つの(そしてこちらが本当の)クライマックスが描かれることとなります。それは、義久と左近の「再会」――共に関ヶ原で西軍に属し、敗れながらも後世にその名を残した猛将同士が、歴史に残らぬ形で再び出会うことになるのです。
史実ではこの二人の接点は、関ヶ原前夜に共に夜襲を進言するも三成に撥ねられたくらいではないかとも思いますが、しかしもしこの二人ががっちりと手を握っていれば――と、歴史のifを思わせる二人であることは間違いありません。
そして「左近だから……」と何となく納得していましたが、考えてみればここで初めて描かれた左近生還の事情も、印象に残ります。
それにしても義久と左近に加えて、宗茂と慶次という、関ヶ原西軍きってのいくさ人たちが一堂に会している光景は、家康が見たとしたら、確実に顔色をなからしめる壮観としか言いようがありません。
そしてこの巻のラストでは、突然のろけだした義久に触発されたように夕月が慶次ラブをアピール。慶次の周囲にいる女性は何となく不幸なことになるような印象がありますが、さてどうなることでしょうか。
個人的には、今の読者の目でも納得のいく恋愛となって欲しいとは思いますが――この巻の冒頭で、慶次が夕月に対して「大人の男」ぶりをアピール(ここで慶次が語る大人概念自体は、結構納得のいくものなのですが)し始めた時点で、少々不安ではあります。
『前田慶次かぶき旅』第8巻(出口真人&原哲夫・堀江信彦 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon
関連記事
出口真人『前田慶次かぶき旅』第1巻 「ご存じ」前田慶次の新たな旅
出口真人『前田慶次かぶき旅』第2巻 御前試合!? 新たなるいくさ人登場
出口真人『前田慶次かぶき旅』第3巻 舞台は天草へ 新たなる敵剣士の名は!?
出口真人『前田慶次かぶき旅』第4巻 開幕直前 いくさ人・武芸者オールスター戦!
出口真人『前田慶次かぶき旅』第5巻 夢の大決戦、いくさ人vs剣士軍団……?
出口真人『前田慶次かぶき旅』第6巻 仰天!? 黄金百万石のゆくえ
出口真人『前田慶次かぶき旅』第7巻 いくさ人ども、薩摩へ渡る!
![]() |
Tweet |
|
| 固定リンク