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2021.11.27

松井優征『逃げ上手の若君』第3巻 炸裂、ひどく残酷で慈悲深い秘太刀!?

 最後の北条家得宗・高時の子・時行が、鎌倉幕府滅亡後に繰り広げる奮闘を描くユニークな歴史漫画の第3巻であります。諏訪の北の国境を偵察に向かい、意外な強敵と遭遇した時行と配下の逃若党。はたしてこの窮地を如何に乗り越えるか――時行の秘剣(?)が唸ります。

 小笠原貞宗との度重なる対決を何とか乗り越え、逃若党ともども、少しずつ成長していく時行。そんな中、小笠原領との国境を偵察に向かおうとする時行ですが――彼の後見人たる諏訪頼重は、実はこの時「未来見えない期」の真っ最中。
 普段から頼りになるのかならないのかわからない頼重の予知ではありますが、頼重にとっては一大事、不安を抱えたまま、時行を送り出すのですが――はたしてその不安は的中することになります。

 時行たちが訪れた村に残っていたのは幼い子供たちのみ――その子供たちを束ねていた青年・吹雪と出会った時行は、村が小笠原配下の(元)悪党集団・征蟻党の襲撃を受けたことを知ります。
 国境の村を侵し、略奪を恣にしてきた征蟻党。人々を苦しめ、放っておけば諏訪に多大な被害を与えかねない彼らをここで阻むべく、時行たちは吹雪の策に従って迎え撃つのですが……


 かくてこの巻で展開するのは、時行&逃若党と征蟻党の全面対決。時行はともかく逃若党はそれぞれ一芸に秀でた面々、そして新たに登場した吹雪は、軍略に秀でるだけでなく二刀の使い手と、文武に優れた青年ですが――対する征蟻党は掛け値なしの暴力のプロ。というより、簡単に言えば「ヒャッハー」であります。

 ただでさえアレな側面の大きい当時の武士の中でもさらにアレな「悪党」。その中でも特に抜きん出た凶暴さと残酷さを持つ首領・瘴奸に率いられる征蟻党は、見るからに世紀末な感じの連中であります。
 普通であれば(?)ヒーローのより強大な力によって蹴散らされる手合いですが、しかし本作の主人公は、基本的に逃げ上手なだけの非力な子供――逃若党の力も限られる中で、この暴力集団を、そして瘴奸を如何に倒すかが、この巻のハイライトであることは言うまでもありません。

 そしてここで新登場の吹雪が大活躍するのですが――彼の才能は、軍略と二刀だけではありません。それ以上に優れた彼の才は、人の才を見抜きそれを伝え伸ばすこと。
 そんな彼が伝授した秘太刀「鬼心仏刀」を以て、時行は無謀にも瘴奸に単身挑むことになるのですが――いやはや、この鬼心仏刀の正体が、まさに時行に相応しいものであるのには、思わず膝を打ちました。

 それも単に時行向きである――というより彼にしか使えないような技であると同時に、ひどく残酷かつ慈悲深いという、矛盾した側面を併せ持つ技であるのが実に面白い。使えるシチュエーションが限られた、ほとんどイベント技とはいえ、まさに本作ならではのものとして、感心いたしました。


 ただ、もの凄いカリカチュアライズされていたとはいえ実在の人物である小笠原貞宗に比べると――おそらくは将監入道・平野重吉がモデルだとは思われるものの――瘴奸と征蟻党との戦いは一段落ちて感じられなくもありません。
 また、初登場の吹雪が活躍するのは当然としても、完全に初期メンバーの弧次郎と亜也子の上位互換になっているのも気になるところではあります。

 これは以前も書いたかもしれませんが、時行と頼重はともかく、それ以外の時行方の、逃若党の面々が今ひとつ魅力に乏しいというのは、やはり否めません。
 ただでさえ実在だけでも個性的な(キャラとして描かれるであろう)人物が多い舞台だけに、架空のキャラの扱いは、どうしても気になってしまうところではあります。


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