山本巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ステイホームは江戸で』 時空探偵、コロナ禍に悩む!?
もはやフィクションの世界でも避けては通れない新型コロナウィルス。しかしさすがに時代小説は大丈夫――と思ったらこの作品があった! 感染拡大を避けて江戸時代に避難したおゆうが挑むのは大店の跡取りを巡る騒動と、奇妙な幼子の拐かし――いつもと変わらぬ(?)江戸でおゆうの活躍が始まります。
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言の発出目前の東京。ステイホームを余儀なくされたおゆう(関口優佳)は、新型コロナも外出自粛もないところに行こうとばかりに、江戸時代に避難することになります。
江戸では腕利きの岡っ引きであるおゆうを待っていたのは、一代で身代を築きあげたという材木商・信濃屋の主人が明日をも知れぬ身となり、親戚たちが跡取りの座を巡って争っているという噂。
さらに江戸では最近、三歳(現代の二歳)の子供が何者かに拐かされ、しかし数日後には帰ってくるという奇妙な事件が起きているというではありませんか。
しかも今度拐かしの被害にあったのは、同じ鵜飼伝三郎の下で働く○○の親分の末っ子。そして信濃屋の方では、主人の後妻の姉が何者かに殺害されるという事件まで発生し、一気に騒動は大きくなるのでした。
この二つの事件を前にして、いつものようには現代の宇田川の手を借りることができないおゆう。しかも肝心の伝三郎は何故か信濃屋の関係者の武家を前に不審な態度を見せることになります。
はたして一連の事件の背後には何があるのか、おゆうが解き明かす意外な真実とは……
というわけで、冒頭に述べたとおり、フィクションまで侵食する新型コロナウィルスも江戸時代には関係ないだろうと思ったら、タイムスリップするおゆうには関係ありありだった――という本作。
作中時間では昨年の春先くらいでしょうか、まだ日本では感染爆発していない頃ではありますが、うかつに江戸時代に行ったりして、江戸に新型コロナを広げたら、これはもうタイムパトロール案件なのでは――と心配にもなります。(一応自主隔離してから行くのですが、それが八日間と中途半端なので……)
それはさておき、事件の方は通常営業といいますか、拐かしに殺しに跡取り騒動という、ある意味実に江戸らしい事件の数々で、むしろホッとさせられます。
事件の構造自体は比較的早い段階でわかる上に、作中でも何度か言及されるように、過去のシリーズでも――というところなのですが、そこに絡むのが幼子の拐かしという、誰がどう見ても許せぬ犯罪で、いつも以上におゆうや周囲の面々も気合が入るのが印象に残ります。
(特にいつもマイペースな宇田川がチラッと感情を見せるくだりなど)
その一方で肝心の伝三郎が何やらしゃっきりせず――と、これはもうシリーズ読者であれば真相はすぐに思い当たるのですが、これももちろん本シリーズならではの仕掛けというべきでしょう。
いつも以上に苦労した科学捜査の結果を踏まえつつ、いかにその結果を表に出さずに真相を暴くか、というシリーズ定番の要素もきっちりとあり――そしてその謎解きの楽しさもさることながら、それ以上に、事件の「真犯人」の動機が何とも胸を打つもので、相変わらず水準以上に楽しめる作品であることは間違いありません。
が――本作の真骨頂は、最後の最後に待ち受けているといってもいいでしょう。結末で明かされるある「真実」。それは……
って、こんなオチありか!? と愕然とさせられること請け合いの本作。いやはや、ある意味伝奇的というかSF的というか、この豪快な展開には、ただ脱帽するしかないのであります。
(だからこの時期なのか!? と妙なところで整合性を取ってくるのも、また心憎いというか何というか……)
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