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2021.12.30

張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第6巻 決着、神異道術場外乱闘編!?

 いきなり始まった神異道術場外乱闘編もいよいよ佳境――住処と賞金を求めて道術バトルに参加した廣天たちが、ライバルたちと繰り広げる仁義なき戦いは続きます。残る相手はあと3組、いずれも一癖も二癖もある術使いとの対決の行方は、そして謎めいた主催者・商荘の秘密とは……

 過去のアレコレから解放され、一時の平穏を取り戻した廣天と仙木。しかし住んでいた墓陵が再開発で取り壊され、すったもんだの末、廣天たちは宋定伯や謎の医者ともども川に流され、豪商・商荘が顔役を務める里に辿り着くことになります。
 折しも商荘が道士たちを集めた術比べの大会を開催、優勝者には莫大な賞金と山がプレゼントされると知った廣天たち。しかし大会には見るからに只者ではない五人のライバルが……

 というわけで始まったこのバトル展開、前巻では子供ながら易断の名人の典風を廣天が、隠形の術を得意とする怪人・黄極君を宋定伯が、それぞれ口八丁手八丁で撃破。
 残るは三名、しかし相手の術の内容もその正体もわかぬまま対決することとなる廣天たちの運命は……


 と、これはまたえらいバトルもの的なノリとなってきた本作ですが、今回繰り広げられる三番勝負(と言っていいものか……)も、これまで同様、いやこれまで以上に一筋縄ではいかない展開となっております。

 残る三人との対決は……
・vs娟玉
 凶悪な山賊を一言でダウンさせる禁呪使いの美女・娟玉ですが、何故か宋定伯と医者を相手に恋バナを始めることに。しかしその相手が廣天だったために思わぬ惨劇に……
 唯一助かった仙木がこの窮地に挑む!
・vs娟玉
 不吉な未来を告げる黒ずくめの妖人・周南から、今日の正午に死ぬと予言されてしまった廣天。仲間たちに迷惑をかけまいと一人離れた廣天の向かう先は、そして周南の意外な正体とは!?
vs謎の人
 残る一人は何だかやたらと寡黙な長髪褐色のダンディ・謎の人。本作だと大体こういう人は全然普通の人だったりするのですが――山中で彼と対峙した廣天たちが知った、謎の人の周囲に漂う謎の気配の正体とは……

 と、あらすじを書いただけでは何が何だかわからないこのバトル(?)の数々ですが――もちろんそこで展開するのは、ゆるーくてすっとぼけた、そして実にテンポの良いギャグの連続。
 それでいてその題材となっているのはタイトルどおり「捜神記」に描かれた奇談・神異譚の数々なのですから、いつものことながら驚かされたり感心したり……

 もちろん本作はそういうコンセプトの作品なのですが、やはり毎度のことながら「こう来たか!?」と驚かされるのです。
(とはいえ、実はこの人物は「捜神記」中のこの人でした、というのはちょっとズルいという気がしないでもありません)

 ちなみに、何気ない描写がその後の伏線となっていることも少なくない本作ですが、今になって前巻を読み返してみると驚かされる場面が幾つもあったり……


 それはさておき、何とか勝者(?)が決まった大会ですが、それで全てが終わったわけではありません。この大会の主催者である商荘――大変な金持ちである上に爽やかな男前、そして里の人々からも慕われる大人物の彼には何やら不気味な影がつきまとっているのですから。

 何事か屈託を抱えているらしい彼の過去に何があったのか。禁足地である山に隠された不気味な像の正体は。そして何よりも姿を見せない(そしてやたら背が高い)彼の新妻とは何者なのか――その謎に、廣天は挑むことになります。
(何だかチラッと諸星大二郎作品に出てきそうなヤツが!)

 いよいよ大会最終日、商荘の前に現れた廣天は何を語るのか。いよいよ最後の魅し合いが始まります。


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