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2021.12.06

久正人『カムヤライド』第6巻 激走超絶バイク! そしてそれぞれに動き出すものたち

 日本最古の変身ヒーロー譚もいよいよ佳境――ヤマトでの死闘の傷も癒えぬまま強敵に挑むカムヤライドは、新たな力を手に入れることになります。その一方で、天津神が、ヤマトの使者が、そしてヤマトタケルがそれぞれの思惑を秘めて動き出し、封じられた過去に近づいていくことに……

 ヤマトでの天津神との死闘で深手を負った末、オシロワケ大王に追手をかけられ、辛くも逃れたモンコ。その先で命の恩人であり「師匠」であるノツチと再会したことにより、謎めいた彼の過去の一端がが明かされることになります。
 しかしそこに急襲したのは国津神・晩蜩神(ヒュグラ)――鈍重な幼生から、空を自在に舞う成体に羽化した晩蜩神にノツチを拐われたモンコですが、いまだ傷の癒えぬ中、超音速で飛行する強敵には及ぶべくもありません。

 しかしそこで己の原点を思い出したモンコは、土とノツチの燃える粉の材料から新たな己の力を生み出します。二輪で爆走する乗機を……

 というわけで、ここまでやるか! ここまでやったか! というしかない超絶バイクの登場。この巻の表紙を飾るのがそれですが――もうこのとんでもない存在が、しかし違和感なくそして何よりも文句なしに格好良いのは、もちろんこの作者だからとしかいいようがありません。
 四連続見開きでその速さを見せた上で、圧倒的だった晩蜩神をものともしない力で粉砕するこの戦闘シーンは、全編EDテーマがかかっているような状態の盛り上がり、いきなりクライマックスであります。


 そして冒頭のこの一大バトルの後は、モンコサイドを離れ、この物語に関わるその他の者たちの動向が語られることになります。

 ヤマトに多大な被害を与え、モンコとオトタチバナに深手を負わせつつも、自分たちも痛み分けに近い形で撤退することとなった天津神・イシコリドメとコヤネ。
 イシコリドメは、草薙剣を手に変身したヤマトタケルに圧倒されたことを恥じて過激な山籠りを始め、一方、コヤネは死闘を繰り広げたカムヤライドの正体とも知らず、一目惚れしたモンコを求めて旅に出て――と、ある意味マイペース極まりない行動ですが、それだけにこの先、再びモンコたちと対峙した時に何が起きるか、予想もできません。
(その一方で、イシコリドメに敗れて意識を失っていたオトタチバナもようやく復活――こちらも今後の動向が気になります)

 そして、オシロワケ大王の腹心と思しき、何とも印象的な面構えの男・タケゥチは、モンコの――いや、その前身と思しきノミの宿禰の動向を追い、単身各地を巡ることになります。
 かつて大王の命により何か――今にして考えればカムヤライドのプロトタイプ――の開発に当たったものの、暴走した末に捕らえられ、死を命じられた宿禰。彼と瓜二つの顔を持ち、そして形は違えどやはり人知を超えた特異な姿に変じて力を振るうモンコとの関係は、果たして……

 前巻で、ノツチを通じて過去――記憶を失って科野で目覚めてから、九州に現れるまでのそれはほぼ語られたモンコ。しかし彼と同一人物であろう宿禰の過去は、未だ謎に包まれたままであります。
 ここでは、その謎の過去を埋める数ピース――入牢していた時の、処刑される時の、そしてその後の、宿禰の足取りが、タケゥチの調査の形で語られることになります。もちろんそれは、第三者たちの目を通じたものに留まるために、あくまでも数ピースに過ぎませんが――しかしそこで語られる宿禰にまつわるエピソードの禍々しさは、否が応でもこちらの心をかき乱してくれます。

 ある意味、冒頭のバトルと並び、この巻のハイライトというべき内容かもしれません。


 そしてもう一人――父たるオシロワケと対峙して、モンコを弁護し、そして逆にオシロワケの行動の中の謎を指摘してみせたヤマトタケル。彼はその父の命により、ある真実を知るために、伊勢に向かうことになります。
 敬愛する兄・オウスとただ二人、仲睦まじく旅した末に、伊勢に到着した彼を待つのは、父の妹であるヤマトヒメ。彼女がヤマトタケルに見せたものとは、あまりにも意外なモノで……

 と、ここまではこの巻の収録分ですが、ここから先、ヤマトタケルが知る真実は現時点では掲載誌でもまだ語られる途中ではあります。しかしこれまでの段階でも、そこで描かれるのは、恐るべきという表現も生ぬるい、地獄のような真実の連続でした。
 果たしてその先に何が待ち受けるのか――ある意味、ここからが物語の核心というべき事実が、次巻では語られることとなります。


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