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2021.12.26

宝塚歌劇『宝塚剣豪秘録 柳生忍法帖』(前編) 驚きの、しかし納得の舞台化!

 本日東京公演千秋楽の宝塚歌劇『柳生忍法帖』をライブビューイングで観劇しました。原作は言わずと知れた山田風太郎の大長編、私のオールタイム・ベスト時代伝奇小説だったものが宝塚で!? と大いに気になっていたのですが、ようやく観ることができました。(以後、原作ファンの視点からの文章になるのをお許し下さい)

 会津四十万石の藩主でありながらも荒淫無道な加藤明成に見切りをつけ、一族で退転した堀主水。しかし彼らは明成子飼いの会津七本槍に捕らえられ、一族で生き延びたのは鎌倉東慶寺に逃れ、千姫に庇護された七人の女性のみという無惨な結末になるのでした。
 一族を辱め、なぶり殺しにした明成と七本槍に復讐を誓った七人の女性。その願いに応えるべく招請された沢庵和尚の依頼で、指南役を買って出た者こそ、柳生十兵衛であります。

 しかしそんな中、江戸で婚礼を上げる男女が何者かに拐われ、千姫の屋敷前に花婿のみが晒されるという事件が頻発することになります。加藤家の陰謀と見て、自ら花婿に扮する十兵衛ですが、はたして七本槍に拐われることに。
 そしてその前におゆらと名乗る美女が現れ、窮地に陥るのでした。

 辛くも堀の女性たちの機転で救われ、明成に痛打を与えた十兵衛。会津に逃げ帰る明成を沢庵とともに追う十兵衛と女性たちは、領内で女狩りを繰り返す七本槍を阻もうとするも、明成の腹心にして七本槍を束ねる魔人・芦名銅伯は、これに苛烈な反撃を加えることになります。
 やむなくただ一人鶴ヶ城に向かう十兵衛。その前に現れた銅伯と刃を交える十兵衛ですが、しかし……


 原作は分厚い文庫上下巻、せがわまさきによる漫画版『Y十M 柳生忍法帖』は全11巻と、まず大長編といってよい『柳生忍法帖』。
 そんな作品を舞台化するというだけでも驚きですが、上演時間はなんと一時間半強。歌や踊りもふんだんに入る舞台で、それはさすがに無理があるのでは――と思いきや、原作の要点要点を抑えることで舞台版の『柳生忍法帖』を作り上げているのには、感心かつ納得させられました。

 しかし原作ではっきりとカットされたのは、吉原での攻防と、会津から江戸へのお千絵らの脱出行のくだりくらいではないかという印象。後はエッセンスのみの部分も少なくないとはいえ、ほぼ全て取り入れられているのには驚かされます。
(ちなみにキャラクターたちも、ほとんど出番はないものの沢庵の七人の弟子や、ラストの柳門十哲まで、きっちり揃っているのも驚き)

 もちろんかなり慌ただしい点は否めず、また天海が死ぬわけにはいかない理由も、台詞を聞いているだけでは分かりづらい部分があったと感じます。
 しかし冒頭と柳生十兵衛見参のくだり、そして銅伯との最後の対決からラストまでは原作にほぼ忠実で、あの場面が、この台詞がこのような形で観られるとは! と原作ファンとしてはただただ感無量なのであります。


 尤も、原作で大きな割合を占めていた、会津七人衆と堀の女たちの一種のゲーム性溢れるバトルの要素がほとんど削られているのは、これは実にもったいないところでしょう。
 というよりも七人衆の技がほとんど再現されておらず、正直なところ誰が誰かわかりにくく――香炉銀四郎は顔に傷があるのでわかるのですが、司馬一眼房は隻眼ではないし、漆戸虹七郎は両腕ある――倒されたシチュエーションとタイミングで、ようやく誰かわかるというのは、ちょっと残念に感じた次第ではあります。
(それにしても原作では三匹の犬使いだった具足丈之進が、本作では同名の三人の少年を使役しているのは、これはこれでちょっとスゴい)

 とはいえ、七本槍の派手なビジュアルは実に鮮やかで――何よりもコスチュームにはそれぞれ原作でのキャラクターや使う技の意匠が込められているのが嬉しい。例えば銀四郎は霞網を思わせる襟巻きが、虹七郎の着物には花柄が、というのはニヤリとさせられるところであります。
 またビジュアルといえば、芦名銅伯も、長髪痩躯、年齢不詳の美丈夫――不老不死という点では共通の『バジリスク 甲賀忍法帖』での薬師寺天膳を彷彿とさせる――というアレンジが施されていたのには、なるほどこういう手があったか、と感じ入った次第です。


 さて、そんな本作において、しかし最も印象に残るのは――と、随分長くなってしまったため、大変恐縮ですが、続きはまた明日とさせていただきます。(本日分に全て書きたくはあったのですが……)


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