安達智『あおのたつき』第7巻 廓番衆修験編完結 新たな始まりへ
書籍版もヒット中の『あおのたつき』、電書版はいよいよクライマックス。神具の鍵を復活させるため、四人の宮司たちによる修験に挑むあおと楽丸の奮闘もいよいよラスト――あおの消滅がかかった恐るべき修験において、楽丸はあおの抱えたわだかまりを解くことができるのか?
冥土の吉原薄神白狐社で、宮司の楽丸とともに迷える魂を救うあお。楽丸の鍵が破壊されてしまったことから、廓番衆による修験に挑んだ二人は、これまで怒丸、喜丸、哀ゐ丸の修験をクリアしてきました。
しかし最後に残った恐丸の修験は、審判の深淵に放り込まれたあおを救うため、彼女のわだかまりを解くというもの。そこで楽丸は生前の姿に戻ったあお=濃紫と出会い、彼女の生前に起きた出来事を聞くのですが……
というわけで前巻から引き続いて描かれる、ある意味これまでで最もキツいエピソードのあおの過去編。あおは何故冥界では子供の姿なのか。あれほど金に拘るのは何故なのか。そして何よりも、三浦屋で三本指に入る花魁だった濃紫があおとして冥界にやって来たのか――その理由が、このエピソードでは描かれてきました。
まだ年端もいかぬうちに、母によって苦界に売り飛ばされたあお。彼女は、自分の借金を返すどころか、妹のコウの治療費の名目で母から金をさらに搾り取られる暮らしを送っていたのであります。
そしてそのコウまでもが実は売り飛ばされていたと知ったあおは、足抜けをしてでも妹に会いに行こうとするのですが、しかし……
という、もう天を仰ぎたくなるような状況だった生前のあおですが、彼女を待つのはさらなる地獄。辛うじて足抜けの罰は免れたものの位を落とされた彼女の前に現れたのは、間夫(を自称する)の暗権八――弱り目に祟り目というべきか、かねてから異常な執着を見せてきた権八によって、あおは奈落に突き落とされることになるのです。
正直なところ、あおの「死」の真実は、想像していたようなドラマチックなものとは大きく異なるものではありました。しかしそれだからこそ、その無惨さと虚しさ、そして無念さは、一層胸に迫るものがあります。
しかしあおの童女姿こそは、彼女のわだかまりであると同時に、彼女の本質であり。人間性の象徴であった――その事実は、一つの救いとも希望ともいうべきでしょう。
そしてそんなあおのわだかまりを、過去を、知った上で正面から受け止め、そして寄り添うことを決めた楽丸の存在もまた、希望と感じます。そして、そんな楽丸が真に祓うべきわだかまりは何であったか――それが、この廓番衆修験編の締めくくりと、新たな物語の始まりにふさわしいものであることは間違いありません。
さて、そして改めて宮司として/使用人として、冥界に彷徨う魂と向き合うことを誓った楽丸とあお。と、その矢先に現れたのは、生前は地本問屋・耕書堂の手代だったというのっぺらぼうの文七であります。
天才と惚れ込んだ絵師・創次郎を世間に知らしめることができないうちに死んでしまい、耕書堂の先代・蔦屋重三郎に合わせる顔がない――という思いでのっぺらぼうとなった文七。彼を創次郎の夢枕に立たせることになった楽丸とあおですが……
というわけで、久々の通常営業(?)となったこのエピソードで描かれるのは、世に受け容れられず、かといって自分のやり方を曲げることもできない絵師との対峙。
しかし夢の中では無敵の怪物になっていた創次郎に自分の言葉を届かせるため、文七はビッグゲストを味方にして、思わぬやり方で挑むのですが――と、漫画ならではの形で賑やかに描きつつ、本作らしい人情話を見せてくれるのが巧みなエピソードであります。
そして本当の姿と虚構の姿というこのエピソードの構図をなぞらえるようにして、あおの「素顔」が描かれるというのも、心憎い仕掛けというほかありません。
また、番外編として収録されているのは、あおがまだ新造だったころについていた花魁とのエピソード。これがまあ実にしょうもないお話なのですが、もう絵の力で笑わされてしまうのがズルい――と思えばラストでヒヤッとさせられるのも巧みな掌編であります。
そしてもう一編、単行本限定の「はなとみつる」は、いきなり現代が舞台!? と驚けば、第1話に登場した冨岡ときよ花の現代での姿を描いた物語であります。
あとがきでは現パロと評されていますが、個人的には、二人が現代に生まれ変わって幸せに暮らしているものだと思いたい――そんな日常の一コマです。
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