「コミック乱ツインズ」2022年1月号(その三)
「コミック乱ツインズ」誌、2022年1月号の紹介もこれでラスト。今回は『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』『ビジャの女王』『カムヤライド』の三作品の紹介です。
『殺っちゃえ!! 宇喜多さん』(重野なおき)
土地は貧しい、海賊は襲ってくると城とは名ばかりの乙子城主となった直家。しかし家臣総出で土地開発したり、海賊退治したり絶食したりと、歴史シュミレーションゲームの序盤のような地味な努力を重ねた末、直家は城主として名を上げることになります。
(しかし弟でも何かあったら容赦しない直家スタイル)
そして家中から評価されるようになった直家に対し、浦上宗景から下された密命は、同族である浮田国定の粛清――と、ここで初めてパリピの裏の顔を見せる宗景も印象に残りますが、面白いのは、その背景となるこの時代の備前国の特殊性でしょう。
なるほど、こういう理由で直家の下剋上が成立したのか――というのはちょっと気が早いですが、本作の重要な背景事情となることは間違いありません。
(この辺りの地域毎の特殊性は、前作である『政宗さまと景綱くん』でも巧みに描かれていたのが印象に残っています)
『ビジャの女王』(森秀樹)
いかにインド墨者といえども、確実な滅びを遅らせることができるだけでは――と思いきや、ブブのおかげで善戦レベルにまで持ち込んだビジャの街。ブブの活躍に、一部ではオッド姫の婿に――などという話も出ているようですが、その陰で宰相のジファルが陰険な動きを見せます。
蒙古と内通し、ブブを引き渡すと告げるジファル。しかしそのタイミングと手段とは――って、あまりにもベタでストレートなやり口だった! しかしそれだけにこれは予見できなかったか、すんごい顔をして城壁から落ちるブブ。それでも辛うじて死は免れたものの、傷を負った状態でブブは蒙古兵に追われることになります。
逃げてくるブブを救うために門を開けようとすれば、同時に蒙古軍がなだれ込んでくる――そのおそれから、結果としてブブを見殺しにするオッド姫。しかし死中に活あり、ブブがラジンに一騎打ちを申し込んだことによって、インド古武術カラリパヤットとブフ(蒙古相撲)が火花を散らすことに――!
と、意表を突く展開の連続に唖然としっぱなしの今回。ブブもビジャも絶体絶命ですが、ブブには頼もしい相棒として今回登場しなかったアイツ、作品のリアリティレベルを超越しているアイツがいるので、まあ……
『カムヤライド』(久正人)
ついに明かされてしまった地獄のような過去の真実――古事記をある意味忠実になぞることとなったオウスとオオウスの惨劇。これまで作中でほのめかされてきたその惨劇の末にオウスはその記憶と力を封印し、長らく忘れ去ることになったのですが――しかしそれは決して失われたわけではなかったのです。
オシロワケとヤマトヒメの陰謀により、その力を育て覚醒させるため「命の危機」「危険な目」(を描く回想シーンで、緊縛が二回も出てくるのは……)に遭わせるべく熊襲平定に送られたオウスは、これまで描かれてきたように、確かにその果てに力に目覚めさせたのであります。
しかしそれでも幻のオオウスの存在に縋ろうとするオウスに対し、ヤマトヒメが見せたもの、ヤマトオオクニタマの残骸の下から現れた聖遺物とは――いやはや、これはあまりにも非道い。前回の展開をある意味上回る、無惨極まりない真実を突きつけられたオウスの身に起きた変化とは……
そして久々に登場し、ライド推も絶好調で国津神を封印するモンコ=カムヤライド。その彼とオウスの運命が再び、そして恐ろしい形で交錯する予感が今回描かれることになります。
しかしかつてモンコは、王家の血などではなく、俺の知っているお前(オウス)を信じると語りました。その絆が今もオウスの中に残っていることを信じたいのですが……
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