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2021.12.24

野田サトル『ゴールデンカムイ』第28巻 「ノラ坊」と「菊田さん」――意外な前日譚!

 連載誌の方では最終章が最高潮、アニメ第4期も決定し、ノリにノッているとしかいいようがない『ゴールデンカムイ』。その最新巻では、最終章を目前に、思わぬ過去の物語が描かれることになります。不死身の杉元と彼を「ノラ坊」と呼ぶ菊田、両者の過去に何があったのか――思わぬ因縁が語られます。

 札幌ビール工場での大乱戦の末、鶴見に拉致され、アイヌの黄金を巡る血塗られた因縁を聞かされることとなったアシリパとソフィア。その中心に常にいたのが父であったことを知って衝撃を受けたアシリパは、ついに黄金の在り処を示すキーワードと思しき父のアイヌ名を鶴見に告げてしまい……

 という場面を受けて始まるこの巻ですが、ここで事態を大きく動かすこととなったのは、有古力松――鶴見派と土方派の間に挟まれた二重スパイであり、何よりもアイヌ、そしてアシリパの父の行動に巻き込まれて父を亡くした男であります。

 自らがアイヌであることについて、ある意味アシリパ以上に複雑な想いを抱く有古。その彼が取った行動は、その結果以上に重い意味を持つといえるかもしれません。
 そしてその先も衝撃の連続。連載時は読んでいてこれほど祈りを込めて次回を待ったことはない――というくらいに感情を動かされまくった展開ですが、このインパクトは改めて読んでみても変わりません。(この後の展開を知ればなおさら……)


 そして江渡貝が作った偽物人皮の判別方法も明らかとなり、いよいよ両派が黄金の在り処を求めて最後の謎解きに挑む中、杉元の夢の形を借りて、意外な過去の物語が描かれることとなります。
 この巻のメインとなるそれは、杉元と菊田の過去――それも、あの尾形の弟・花沢勇作に絡んだもの。花沢家を巡るある事情が、杉元たちを巻き込み、大騒動に発展するのです。

 故郷を飛び出し、当て所なく放浪を続けた(京都の優しいおじさんは誰? 誰なの?)末に、東京で士官候補生を相手に大乱闘を繰り広げたことをきっかけに菊田と出会った杉元。菊田から「ノラ坊」と呼ばれることになった杉元は、ある仕事を持ちかけられるのでした。

 それは花沢勇作の身代わりとしてお見合いに臨むこと――勇作を戦場で旗手にしまいとする母の差し金で、彼との結婚を狙う華族の娘・金子花枝子から勇作(のDT)を守るため、杉元は士官候補生のふりで帝国ホテルに向かうことになったのです。
 しかしそこに鶴見・宇佐美・月島・尾形が絡み、何故か杉元は全裸で大乱闘を繰り広げる羽目に……

 と、ある意味実に本作らしいスラップスティックな大騒動が展開するこの過去編。しかしそこで描かれるのは、杉元と菊田の因縁だけではなく、「いま」にまで繋がる様々な因縁の始まりなのです。

 何故鶴見一派はアイヌの黄金探しに本腰を入れることになったのか。菊田がスパイとして鶴見に近づくこととなったきっかけは。そしてこれまで故人として直接触れられることのなかった花沢勇作とはいかなる人物だったのか。何故菊田は鹵獲癖を持つに至ったのか、さらにはノラ坊は何故不死身の杉元となったのか……

 ここにあるのはプリクエルの醍醐味――ある程度独立した過去の物語を描きつつも、物語のミッシングリンクを埋め、現在描かれているものを掘り下げるというそれが、この展開では巧みになされているといえます。
 そしてそれと密接に絡みあいながら同時に描かれるのは、杉元の根幹にある情の一つであり、そして菊田という本作では数少ない「大人」の男の抱えたものであり――ここでも本作の水際立ったキャラクター描写は健在だと唸らされました。

 さらにいえば、今回非常に損な役回りの花枝子も、単なる賑やかしの愚かな人物に終わらせず、一個の人間として描くのには、大いに好感を抱いたところであります。
(そしていかなる時にも女性に対する礼儀を忘れない杉元の好漢っぷり!)


 そんな過去編を経て、ついに描かれる黄金の在り処。しかしその前に、この過去編を読んだからこそ、極めてショッキングな一つの結末が、待ち受けることになります。
 これも、時に極めて読者にとって残酷な展開を平然と描く本作ならではのものかもしれませんが――しかし悲しく辛いだけで終わらないのは、そこに志を受け継ぐ者、未来を託された者がいるからだと感じます。

 新たな因縁とともに、物語はいよいよ次巻より最終章に突入であります。


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