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2021.12.07

「鬼滅の刃」遊郭編 第一話「音柱・宇髄天元」

 煉獄家を訪れ、酒に溺れる煉獄の父と諍いになりながらも、弟の千寿郎に煉獄の最後の言葉を伝えた炭治郎。その四ヶ月後、音柱・宇髄天元が、嫌がるアオイたちを任務に連れ出そうとしているのを見て割って入った炭治郎・善逸・伊之助は、彼女に代わって鬼が潜む遊郭に向かうことに……

 先週、劇場版を再編集したテレビ版の「無限列車編」が完結し、いよいよ今週から完全新作の「遊郭編」がスタートすることとなったアニメ版『鬼滅の刃』。
 初回は特別に通常の倍の時間となっていましたが、それだけに余裕を持って、これまで以上に丹念に原作を映像化した、横綱相撲という言葉が感じられる内容でありました。

 内容的には原作第8巻の後半――第67話から第70話まで。正直なところ、今回の内容のかなりの部分は無限列車編のエピローグといったところで、宇髄の登場は今回のラスト近くになるため、2話分の時間を取っての構成は正解といえるかもしれません。

○冒頭
 無限列車編のラストの直後から――すなわち、煉獄が斃れ、悲嘆に暮れる炭治郎たちの姿から始まりますが、その後に描かれるのは一人の少年の姿。夜の街を独り歩き、書店で書籍を求めて自邸に帰る彼は、どうやら大家の養子にもらわれた少年のようですが――実はそれは無惨の仮の姿なのでした。
 と、結構な時間を割いて描かれるこの無惨の少年としての生活、正直なところそこまで重要な要素ではないように思いますが、意気揚々と炎柱撃破の報告に現れた猗窩座をド詰めするパワハラっぷりは、少年姿だけにインパクトが大きいのは間違いありません。その直前、養父母が彼を「使用人にまで気配りしてくれる」とオリジナルの台詞で評するのが強烈な皮肉であります。

○煉獄邸訪問
 ある意味今回のメインとも言える炭治郎の煉獄家訪問。正直なところ、この辺りはオリジナル要素はほとんどない(炭治郎のもとを尋ねる善逸が、厨房から饅頭を盗むシーンがある程度?)のですが、煉獄の弟・千寿郎を演じる榎木淳弥の泣きの演技にやたら気合が入っており、強く印象に残りました。
 一方、初登場時はひたすらどうしようもない煉獄父ですが、炭治郎の耳飾りを見て激昂、日の呼吸(音だけだと本当に火だか日だかわかりにくい)の使い手と思い込んで一方的にわけのわからないことを言い出したくだりは、後から振り返ってみれば、この時点で驚くほど核心をついたことを語っていたのだな、と驚かされます。

○鋼鐵塚の襲撃
 そしてこの無限列車編のエピローグの湿っぽい空気を一気に吹き飛ばしたのは、完全に炭治郎を殺しにかかってきた鋼鐵塚蛍37歳の出現。原作でも抱腹絶倒だったこのくだりですが、アニメ化によって遥かに怨念と迫力の増した37歳児の姿は絶品で、悲しみと笑いの間で感情を思い切り揺さぶられました。
(この後、どうやって炭治郎が鋼鐵塚から逃れたかが描かれた部分はアニメオリジナル)

○単独任務
 ここで今回最大のオリジナルシーン――原作では「単独任務帰り」の一言で済まされた「単独任務」であります。
 とある山寺に潜む鬼――背中から蜘蛛か蟹のような腕を生やした鬼と、雨のそぼ降る中で対決する炭治郎、そして禰豆子。この原作にない戦いは、実質今回唯一の鬼との対決シーンですが――ここで描かれたのは、この先当分(本当にかなり長い間)出番のない禰豆子を描いておくためであったのかな、という気もいたします。

○音柱・宇髄天元
 そしてようやく登場することとなった音柱・宇髄天元は、いきなり蝶屋敷の女の子たちを遊郭に攫っていこうとする、冷静に考えればとんでもない行動を取っていたわけですが(ここでさり気なくカナヲの成長を描くのもうまい)、やはり声と動きがつくと、その無茶苦茶さが逆に気持ちよく感じられるのが面白いところであります。
(少し先ですが、ラストの大正コソコソ噂話で、さらりと炭治郎の鼻を使って宇髄の真のキャラを文字通り匂わすのもうまい)

 この宇髄の前に、伊之助と善逸もやたら格好良く駆けつけ、炭治郎と三人勢揃いしたところでついに今回のシリーズタイトルである「遊郭」の語が宇髄から語られ――というなかなか良いヒキで次回に続くことになります。

○エンディング
 ED(おそらく次回以降のOP)は、遊郭を舞台としたアクションの合間に、夜空に花火が上がりまくるという、実に宇髄らしい――ほとんど彼のプロモーションと言っていいような内容。これまでとはまた異なる、派手で明るいOP映像ですが、これはこれで好印象です。
 いよいよ本格的に物語が動き出す次回以降も期待できそうです。


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