椎名高志『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第1巻 これぞコミカライズのお手本、椎名版夜叉姫見参!
スピンオフやコミカライズという言葉では括れないようなあまりに豪華なコラボに度肝を抜かれた『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第1巻であります。言うまでもなくTVアニメ『半妖の夜叉姫』のコミカライズですが、その枠に留まらない魅力を持った作品であります。
現代に暮らす女子中学生・日暮とわ。誰に似たのか尖すぎる目つきと常人離れした身体能力、妖気を感じる能力を持つ彼女は、ある日、神社の神木から現れた二人の少女、せつなともろはと出会ったことから、戦国時代に向かうことになります。
実は大妖怪・殺生丸と人間のりんの間の子であるとわとせつな、そして半妖の犬夜叉と人間のかごめの子であるもろは――三人の少女は、自分たちが生まれてすぐに行方不明となった両親の行方を求めて旅立つことに……
そんな基本設定とストーリーはアニメと大きく変わらないのですが、しかしここから展開する物語は、一味も二味も異なるものとなっています。
元々コミカライズは、元となる映像作品に比べれば、どうしても表現や分量について制限されることは否めず、そのために一歩間違えればダイジェスト感が強くなりかねないのですが――本作においてはそれは無用の心配というべきでしょう。
特に本作の場合、キャラクター描写の点で、アニメに大きくアレンジを加えて――というより基本はそのまま、その味わいを変えているといえます。
たとえば第1話冒頭のとわは、アニメでは他校の生徒との喧嘩を通じて身体能力の違いと現代に違和感を感じている姿が描かれましたが――本作では女子校で周囲からモテまくりつつも敬遠されている姿、そして出没する妖と対峙している時のみ周囲との違和感を忘れられる姿が描かれ、アニメ以上に振り幅の大きさを感じさせる姿となっています。
ほかの二人も、もろははより大雑把な感じが増量された一方で、せつなは(とわとの別れのシチュエーションや胡蝶の性質が少々異なる点があってか)キツいというより無感情な印象だったり……
と、三姫の人物造形の掘り下げ方、エッジの立て方がまた異なる――そしてそれでいてなるほどこういうことかと納得できる――ものとなっているのが、何とも興味深く感じられます。
(もう一点、草太の作った荷物の意味づけや、それがとわの心に与える影響の描写なども、実に上手い!)
その一方で、身も蓋もないツッコミ(桔梗の最期についてのとわのコメントには爆笑)やキャラ同士がわちゃわちゃ騒ぐ姿(特にもろはと出会って大騒ぎする日暮家の面々など)は、これはどう見ても椎名作品! というべき味わいで、このあたりはある意味期待通りの満足感なのです。
そして物語面においては、第2話以降、とわが戦国時代に向かってからの展開に大きくアレンジが加わっているのですが、そこでのゲスト妖怪の扱いが実に巧いのです。
到着早々、とわが夜爪に狙われるという展開こそ同じながら、その中で登場する妖怪が屍舞烏に無女という、『犬夜叉』最序盤に登場した面子――実質百足上臈の三つ目上臈が冒頭に登場したのを受けてなのでしょう――というのが心憎い。
特に無女は、この設定をこの形で活かしてくるか! という配置(『犬夜叉』では殺生丸が送り込んできたというのも踏まえて)の上に、そこからさらに泣かせのドラマに絡めてくるというのには、感嘆いたしました。
このように様々な点で、先に述べたコミカライズに生じやすいダイジェスト感を見事に避けるだけでなく、新たな、しかしアニメ視聴者にも(『犬夜叉』読者にも)納得の物語を作り出してみせる――そんな本作は、ちょっと大げさかもしれませんが、コミカライズのお手本のようにすら感じられます。
巻末の高橋留美子と椎名高志の対談で述べられているように、作者は以前に『ウルトラマンネクサス』のコミカライズを担当していたわけですが、その際の経験が生かされているというべきでしょうか。
(この対談、本作成立までのちょっと意外な経緯も語られており必見です)
いずれにせよ、原作ファン、椎名ファン全てにお薦めの快作であるこのコミカライズ。アニメの方はほとんど終盤ではありますが、こちらの方はできるだけ長く連載してほしい――そう期待してしまうのです。
『異伝・絵本草子 半妖の夜叉姫』第1巻(椎名高志&高橋留美子ほか 小学館少年サンデーコミックス) Amazon
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