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2022.01.13

十束椿『兎角ノ兄弟』第1巻 怪奇の兄弟、世の怪奇を暴く

 江戸時代を舞台にしたいわゆるゴーストハンターものは様々ありますが、本作はその中でもなかなかにユニークな設定の一作。不老不死の兄と常人の弟が、この世の怪奇を追い、謎を解き明かさんとする物語であります。

 江戸で人気を博す曲芸奇術師・兎角奇団――子供のように幼く小さな兄の志月と、長身の弟の千兼という奇妙な兄弟には、ある秘密と目的がありました。
 幼い頃、京で食うや食わずやの毎日を送っていた二人。ある日、四条河原の見世物小屋で評判を博していた空蝉一座に興味を持った二人は、そこで己の身に無数の刀身をめり込ませて平然としている仮面の男・空蝉の奇術を目の当たりにすることになります。

 興味の赴くまま楽屋に潜り込み、自分も空蝉のようになりたいと語る千兼に対し、意味ありげに笑う空蝉。そして自分の力を与えてやろうという言葉と共に向けられた空蝉の刃を、弟を庇って志月は受けるのでした。
 しかし確かに胸を貫かれ、一度は心臓が止まったものの、息を吹き返し、瞬く間に傷も治ってしまった志月。なんと彼は不老不死となり、年を取ることがなくなってしまったのであります。

 それ以来、元の体に戻るために、姿を消した空蝉を追って旅を続けてきた二人。二人は旅芸人の傍ら、怪奇を探しその正体を暴くことを裏の生業に、今日も街に立つ……


 そんな何ともユニークな設定の本作。この第1巻には、この因縁を描いた第1話のほか、三つのエピソードが収録されています。
 住んでいた三味線の師匠が何者かに殺されて以来、夜な夜な三味線の音が聞こえる家の怪。
 鏡を出し物にする見世物小屋の、覗いた者の死相を映すという「死人國の鏡」を巡る騒動。
 目の悪い老婆が可愛がっていた尻尾が二本ある猫の行方探し。

 いかにも裏稼業ものらしい(?)悪人退治あり、因縁のある器物怪談あり、妖絡みの人情話あり――と、登場する怪奇とその正体がバラエティに富んでいるのは好感が持てます。

 何よりも、どこまでが本物の怪奇か偽物の怪奇かわからない出来事を、まごうことなき怪奇である本人が解き明かしていくというシチュエーションは、実に好みであります。


 もっとも、千兼が普段から大刀を腰に帯びて歩き回っていたり、どう見ても町人キャラがやたら太刀の扱いに長けていたりと、首を傾げたくなる描写があるのは、ちょっと弱ったところではあります。
(後者は、まあもしかしたら前身が武士なのかもしれない――とフォロー)
 また、実質的に最初のエピソードである第2話の展開も、色々と不自然な点は否めない(普通すぐに気付くだろうと……)と感じます。

 しかしその一方で、千兼の刀術が、漫画的に映えるものである上に大道芸をベースにしたものであるのはなかなか面白いアイディアであります。また繰り返しになりますが、各話がユニークかつバラエティに富んでいる点は、本作ならではの魅力であると感じます。


 まだまだ物語の向かう先はわかりませんが、第2巻以降も読んでみたいと思います。


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