« 赤神諒『空貝 村上水軍の神姫』の解説を担当しました | トップページ | 岩崎陽子『浪漫狩りZERO』 もう一つの『浪漫狩り』、ここに復活! »

2022.01.15

「週刊現代」誌で赤神諒『仁王の本願』の書評を担当しました

 昨日、赤神諒『空貝 村上水軍の神姫』文庫の解説についてお知らせしましたが、もう一つ、赤神作品関連のお知らせです。同日発売の「週刊現代」2022年1/22号の「日本一の書評」コーナーに『仁王の本願』(KADOKAWA)の書評を執筆しています。

 舞台は16世紀後半の加賀――約百年前の一向一揆によってうまれた〈百姓ノ持チタル国〉(ここでいう「百姓」とは農民ではなく、「万民」の意)。本作は、この地を守るために朝倉・上杉・織田と戦いを続けた本願寺の杉浦玄任を主人公としています。

 杉浦玄任といえば、一部では最近の『信長の野望』で本願寺の妙に強い武将として知られていますが(?)、もちろん実在の人物。本願寺から加賀に派遣され、加賀を守っただけでなく、朝倉が滅んだ後の越前にも一向一揆の国を作ろうとした人物であります。
 本作はその玄任の半生を史実を踏まえつつ描いた作品ですが――一人、玄任の姿のみを追ったものではありません。本作の中核となっているもの、それは「民主主義」。その脆さ・危うさ、そして尊さを描いた物語なのです。

 上に述べたように、誕生してから百年近くが過ぎた加賀。そこでは民が民を治めるという理想は薄れ、一部の人間が権力と富をかき集め、そして周囲の人間たちも、ある者は諦め、ある者は擦り寄り――と、完全に腐敗しきった状況にありました。
(ちなみにフィクションで戦国時代の加賀が描かれる時は、かなりの確率でこの視点であるように感じます)

 しかし本作の玄任は、その民の国を守り抜くことを「本願」として戦い続けます。そこにあるのは権勢欲や領土欲、いや一向宗を広げたいという欲すらなく、ただ民が人間らしく、自分自身の手で自分の生き方を決められる国を守りたいという想いのみなのです。
 もちろんそんな玄任を煙たがる者、嘲笑う者は少なくありません。本作で外敵との合戦と並行して、時にそれ以上の迫力を以て描かれるのは、そんな内なる敵との戦い――特に後半のクライマックスとなるある場面の迫力は、なるほどこの作者ならではと感心――なのであります。

 もちろん当時の加賀の体制と、現代の民主主義を同一視はできないでしょう。しかし、過去の出来事や人物に、現代社会の諸相を照らし合わせることは(それが投影であれ対比であれ)歴史小説の魅力、いや可能性だと僕は考えています。
 その意味で、本作の終盤で玄任が語るある言葉には、大いに心揺さぶられ、そして勇気と希望を与えられた想いです。


 ――というような想いを込めて、書評は書かせていただきました。文庫解説に比べれば分量が限られている分、なかなか難しいところもありましたが、作品から受けた感銘を力に変えて書かせていただきました。

 冒頭で触れたとおり、文庫解説と雑誌での書評という違いこそあれ、同日に同じ作者の作品に関わるお仕事ができたというのは珍しい経験でした(ちなみに「週刊現代」では、以前にやはり赤神作品の『立花三将伝』の書評を担当しました)。
 しかしどちらも大好きな作品だけに、楽しく、ありがたく務めさせていただいた次第です。


『仁王の本願』(赤神諒 KADOKAWA) Amazon

「週刊現代」2022年1/22号(講談社) Amazon

関連記事
赤神諒『空貝 村上水軍の神姫』の解説を担当しました
「週刊現代」誌で赤神諒『立花三将伝』の書評を担当しました

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

|

« 赤神諒『空貝 村上水軍の神姫』の解説を担当しました | トップページ | 岩崎陽子『浪漫狩りZERO』 もう一つの『浪漫狩り』、ここに復活! »