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2022.01.12

松井優征『逃げ上手の若君』第4巻 時行の将器 死にたがりから生きたがりへ!

 諏訪に保護された北条高時の子・時行が、逃げまくりながらも鎌倉奪還のために奮闘するユニークな歴史活劇である本作。その第4巻で描かれるのは、実に面倒くさい中世武士たちの姿であります。恥辱を受けるくらいであれば死を選ぶ武士たちを前に、時行の将器が問われることになるのですが……

 諏訪の北の国境を侵す悪党と激闘を繰り広げ、見事撃退した時行と逃者党。その最中、軍学と二刀の達人・吹雪を仲間に加え、逃者党はさらに力を増すことになります。
 そんな折り、新たな信濃国司・清原信濃守の横暴に耐えかねて蜂起した保科弥三郎ら北信濃の武士たち。時行と逃者党は、弥三郎らを説得し、彼らを逃がす使命を帯びて川中島に向かうことになります。

 しかし恥辱を受けたら相手を殺す! 殺せなかったら戦って(相手をできるだけ巻き添えにして)死ぬ! というのがある意味この時代の武士の典型。身分を明かせるならともかく、伏せたままで時行が説得するのは至難の技であります。
 そしていかに逃者党が助太刀したとしても、わずか数名で戦局をひっくり返せるはずもない。そんな状況で、死にたがりの武士たちを生きたがりに変えることはできるのか……


 というわけで、この巻で描かれるのはある意味本作初の本格的な戦であり、そして時行の将器であります。
 これまでは時行個人の能力を発揮しての勝負や、逃者党を率いてのゲリラ戦が描かれてきたわけですが、本当に鎌倉を奪還するとすれば、大規模な軍を率いての戦を避けるわけにはいきません。

 それも単に命令するだけでなく、真に相手の心を掴んで、心を一つにして戦う必要があるわけですが――唯一の得意技が逃げることという、この時代の武士とは対極にある時行に果たしてそれができるのか?
 そんなドラマが、いかにも本作らしい、時に不謹慎ですらある、ぶっちゃけたノリを交えて展開していくことになります。
(人が良い顔をして異常者おじさんと、騎馬武者くっ殺には爆笑)

 正直なところ、冒頭で絵に描いたような横暴なバカ国司とその配下が出てきた時には、どうかなあ――と(明らかに愚かな相手を踏み台にして自分たちを持ち上げる手法は個人的には感心しないので)心配になりました。
 が、この巻ではそれはそれとして、死にたがりの武士たちを前にして、時行ならではの能力で、そして彼だからこその説得力で、彼らの心を変えていく展開が中心。この辺りはある意味王道ではあるのですが、上に述べたように変則的なギャグ描写が挟まれる本作でそれをやれば、より効果的に感じられます。

 そしてもう一つ印象に残ったのは、今まで今ひとつ個性が感じにくかった逃者党の一人・弧次郎の存在をグッとクローズアップしてみせたことであります。
 逃者党の他のメンバーに比べれば特殊能力もなく、何だか地味に感じられる弧次郎。しかしこの川中島の戦いでは、彼ならではの、彼らしい力を発揮してみせてくれたのには、これも王道ながら感心いたしました。


 そして川中島の戦いの後に、時行のホームシック(?)のエピソードが描かれるのですが――これが幕間のちょっとイイ話かと思いきや、この先の物語へと繋がる展開が描かれることになります。
 いまや最大の敵・足利尊氏の弟である直義が治める地となった鎌倉。尊氏の得体の知れぬカリスマ性とは全く異なる、しかしそれと同じ効果を上げる計算高さを持つ直義の統治を住民たちも歓迎していたのであります。

 そして彼と共に鎌倉に立つ武士たち・関東庇番衆もまた、いかにもな強敵揃い。いずれも実在の人物ですが、本作らしいアレンジをほどこされているのが目を引きます。


 ――が、その前に時行の前に立ちふさがるのは、これまで幾度となく戦ってきた小笠原貞宗。ついに時行こそが北条の関係者と目をつけた彼と、時行は一対一で対峙することになります(ここでいつもの変態目玉おじさんとは異なる、小笠原流の祖らしい顔を見せる貞宗がいい)。

 そしてその時行にただ一人付き従うのは亜也子――どうやら弧次郎の次は彼女の活躍を見ることができそうであります(はたしてこの先「ポロリ」はあるのか……?)


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