上田秀人『勘定侍 柳生真剣勝負 二 始動』 もしかして最強の主人公、いよいよ活動開始!
大名となった柳生家の勘定方として急遽召喚された宗矩の庶子・一夜の活躍を描くシリーズの第2巻は、サブタイトル通り一夜がいよいよ江戸で活動開始。柳生家の経営を立て直すためにさっそく独自の動きを見せる一夜ですが、一夜を、そして柳生家を注視する目は一つではなく……
一万石に加増され、念願の大名家となった一方で、惣目付の職を離れることとなった柳生家。しかし家中には内政引き締める勘定方を務められる人間がいないことから、宗矩は庶子である淡海一夜を大坂から召喚することを決意します。
大坂きっての唐物問屋の跡取りとして育ち、会ったこともない父親の突然の呼び出しに嫌々ながらも従うことになった一夜。途中柳生の庄に立ち寄った一夜は、兄である十兵衛と左門と出会い……
というわけで、物語の発端と、柳生の庄を訪れた一夜の姿が描かれた第1巻でしたが、続く本作の前半では、一夜が柳生の高弟・武藤大作とともに江戸に向かう姿が描かれます。
剣の腕は立つものの、商売のことはからっきしの大作を翻弄しつつ、京で商人たちを相手に今後の布石を打った一夜。順調に進んだかに見えた旅ですが、江戸を目前とした川崎宿で、二人は自分たちを付け狙う一団に気付くことになります。
そして六郷川で襲いかかる八人の牢人。槍や大太刀まで用意している上にこの人数差では、いかに達人の大作でも多勢に無勢となりかねない状況ですが、剣はど素人の一夜が役に立つとは思えません。
しかしそこで敵の得物も考えて陣形を考案、さらには金を「借用」したいという牢人に対し、期限や利子、担保を尋ねて混ぜっ返し時間を稼ぐなど、一夜も「らしい」活躍を見せます。
いよいよ人を斬れると腕を撫す剣呑な大作と、口八丁の一夜――この二人のコンビプレーが実に面白く、この牢人たちとの戦いが、本作の前半のクライマックスといってよいでしょう。
そしてこれに対して後半のクライマックスは、いよいよ父子対面――というにはいささか剣呑かつドライなものとなった、宗矩と一夜の出会いの場面であります。
そもそも本作の宗矩は相変わらず(?)ブラックながら、なかなかに悩み多き人物。武者修行に行きたがった十兵衛が家光の勘気を被ったり、その代わりに左門を小姓に差し出したら寵愛されすぎて病気理由で柳生に戻す羽目になったりと、子のことで綱渡りの連続なのですから。
それでも惣目付として在職中は家光の意を汲んで大名潰しに邁進して、その功を認められた形に大名になったのはいいのですが――その後も保科正之を出自に相応しい大名にするためにふさわしい土地を用意せよという命を家光から受け、いわば陰の惣目付を務めることになった宗矩。
そこで彼は会津の加藤明成(!)に目をつけることに……
と、あれこれと悩みを抱えた宗矩に対して、父ではなく、一種の交渉相手として接する一夜。宗矩が殺気を迸らせれば、一夜は商売っ気で応じるという、親子とは思えぬ丁々発止のやり取りを二人は繰り広げることになります。
しかし宗矩の子たちの中で一夜のみが宗矩の悩みを理解し、そして宗矩もまた、これからは武士の時代ではなく金の時代と理解している――そんな対極の二人だけが互いの考え・立場を理解し合っているという皮肉な関係が、また何ともユニークなのです。
それにしても一夜は、ある意味本作では一種のチートスキル持ちともいうべき存在ですが、それに留まらず、まだまだ成長の余地があるのも面白い。(そこで前作での十兵衛や左門との無茶なやり取りが作用しているのが実に巧みです)
あるいはこの調子では上田作品では最強主人公になるのでは――という予感すらしますが、もちろん彼の本格的な戦いはこれから。
惣目付・秋山修理亮が、いやそれどころか将軍家光までもが彼に興味を示し、彼の存在自体が台風の目になりつつある中、次なる一夜の手は――続きのご紹介はまたいずれ。
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