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2022.01.16

岩崎陽子『浪漫狩りZERO』 もう一つの『浪漫狩り』、ここに復活!

 昭和初期を舞台に、「埋蔵金盗掘指南」を掲げる男・猿渡遼太郎が、埋もれた財宝を巡り繰り広げる伝奇冒険アクション『浪漫狩り』――その本編については先日までにご紹介しましたが、本作はそれに先立ち連載された(結果として)パイロット版というべきバージョンであります。

 秋田書店の「プリンセスGOLD」誌に連載され、全7巻で完結した『浪漫狩り』(以下、「無印」)。しかしこの連載に先立ち、角川書店の「少女帝国」に掲載されたのが、本書に収録された三話であります。

 昭和初期、「埋蔵金盗掘指南」の看板を掲げる猿渡が、様々な遺跡や宝を巡り、軍をはじめとする様々な連中と渡り合うという基本設定、そして後で述べるように登場キャラクターはほとんど変わらないのですが――掲載誌の休刊により三話で終了。
 その後仕切り直して、上記のとおり無印が連載されたため、形としてみれば、パイロット版のようにも見える作品であります。

 そんな本作ですが、登場キャラクターは猿渡のほか。その押しかけ弟子である篁伊織、表の顔は新聞記者実は陸軍情報部の那珂川慶輔、幼馴染の実澄、ライバルの犬神――という面々が登場。
 ビジュアル的に微妙に変わっていたり(本作の実澄は高身長がコンプレックスになっているという設定)、性格が大きく異なっていたり(本作の犬神は平然と人を殺す紛う方なき悪人)と相違点はありますが、ラストには篠原少佐らしき人物も登場し、この時点で、無印のキャラクターがほぼ出揃っているのは興味深いものがあります。
(その一方で親友で冒険家の羽佐間が登場していないのも面白い)

 そんなわけで無印読者はスッと入れる本作ですが、収録された三話は、いずれも無印にないエピソードであり、新たな猿渡の冒険として、楽しく読むことができます。

 伊織の弟子入り志願と、罠にかけられたも同然で陸軍のとある山の発掘に協力することとなった猿渡の姿を描く「盗掘指南」
 金融恐慌で職を失い、埋蔵金探しに嵌まり込んだ婚約者を憂う女性の依頼で指南を行う「猿ケ京埋蔵金伝説」
 鵜葺草葺不合尊陵と噂される古墳から出土した宝剣を奪い、警備の兵士を殺害した男・犬神を追って、猿渡が奔走する「神の陵」

 いずれのエピソードも、一話あたりのページ数が多いためか、起伏に富んだ内容という印象。また、冒頭のエピソードから軍が絡んだ上に宝の内容が伝奇要素が強いのが、個人的には嬉しいところであります。
(その他にも第一話は、「埋蔵金盗掘指南」の内容を含めた猿渡のキャラクター紹介、伊織の弟子入り等、理想的なファーストエピソードだと感じます)

 そして何よりも、三話それぞれに、陰に陽に、「この時代」であることの必然性や、この時代であることを利用した仕掛けがあるのも嬉しいところであります。特に第三話で軍が絡む理由だけでなく、その一方で軍が表に出られない理由には、こう来たかと嬉しくなってしまうほどなのです。
(正直なところ、本来の読者層にどれだけマッチしたか疑問な部分はありますが……)


 何はともあれ、もう一つの『浪漫狩り』として文句なしの――あるいはもう一つの『浪漫狩り』としておくにはもったいない完成度の――本作。まことに偶然ながら、数日前に電子書籍化されたというタイミングでもあり、ファンならぜひチェックしていただきたい作品であります。


『浪漫狩りZERO』(岩崎陽子 秋田書店プリンセスコミックス) Amazon

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