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2022.01.02

うちはら香乃『異界譚里見八犬伝 五章 たたかいのあと』 オリジナルの、しかし延長線上の荘助と道節

 これまで第4章までが電子書籍化されていた朝日小学生新聞連載中のフルカラー漫画『異界譚里見八犬伝』の、第7章まで+番外編が電子書籍化されました。今回ご紹介するのはその第5章――「たたかいのあと」というサブタイトルの通り、大塚村の死闘の後の荘助と道節、そして浜路の姿が描かれます。

 信乃が古河で騒動に巻き込まれ、現八と小文吾に出会っていた頃、大塚村で起きた惨劇――玉梓に憑かれた代官・ひがみ宮六一党が大塚村の人々は次々と惨殺したのであります。
 その場に駆けつけた荘助が一度は宮六を討ったものの、宮六は周囲の死体を吸収して、巨大な怪物へと変化。荘助は、怒りと悲しみに駆られながらも、道節の助けを得て宮六を倒すも、力を使い果たして倒れるのでした。

 そんな第四章の展開を受けて描かれるのは、その後の荘助を中心とした物語であります。
 道節とその配下・深淵衆に救われ、静養することとなった荘助。浜路を守れなかったという悔恨の中で、自分の過去を見つめ直し、信乃を支えるという想いを新たにする荘助に、道節は飄々と接します。そして荘助は道節に自分たちの宿命と己の過去を語り……

 原典では庚申塚での一瞬の交錯で終わった荘助と道節の出会い。それを本作は、ほぼ一章かけて、丹念に描いていくことになります(厳密には本作での二人のファーストコンタクトはもっと前なのですが)。
 大塚村の庄屋の使用人と、身をやつして関東管領を狙う復讐鬼――それぞれに全く異なる身分を持つ八犬士の中でも、特に異なる立場に感じられるこの二人を、本作は親しい者たちを理不尽に奪われたという共通点を踏まえ
つつ描くのです。

 そしてその中でさらに掘り下げられる荘助のキャラクター――前章の紹介でも触れましたが、原典では今ひとつ地味に感じられた荘助の内面を、本作は信乃や浜路の存在を軸にしつつも、さらに突き詰めていくことになります。
 それは確かに本作のオリジナルではあるのですが、しかしその根底にあるのは、確かに原典を踏まえた一つの解釈というべきもの。それだからこそ、荘助の、そして道節の姿は、原典の延長線上にあり得るものとして、違和感なく感じられます。

 そしてそんな二人の関係の一つの到達点として――個人的に原典では今ひとつ効果的に感じられなかった――玉の交換を描くという構成には、大いに感じ入った次第です。


 さて、この章では、荘助と道節に加え、二人と縁深いもう一人の人物である、浜路の姿が描かれることになります。本作においては宮六に深手を負わされた彼女は、伏姫神に救われて保護される形で、神界で暮らすことを余儀なくされることになります。
 そこで彼女が目の当たりにしたのは、伏姫・八犬士と玉梓の戦いに対する神々たちの微妙な態度で……

 と、ここで描かれるのは、伏姫以外の神がこの世界では存在していること、そしてその神々が、文字通り下々の人間たちの争いに関わることを心良く思っていないという事実。
 このくだりはいうまでもなくオリジナルですが、おそらくは原典では基本的に有り難く畏れ多いもの、人を救うものであった神仏の奇瑞というものを、捉え直す試みの一端ではないか――そんな印象はあります。

 それは今後の楽しみとして、ここでもう一つ目を引くのは新たな犬士の登場――そう、伏姫に保護された犬士といえば、犬江親兵衛であります。
 本作ではいわゆる古那屋の段がなかったため、はたしてどのような形で登場するのか、と思っておりましたが、どうやら同様の展開が過去にあった様子。この辺りは今後、小文吾のキャラクターの掘り下げと併せて、今後描かれることでしょう。

 もちろん親兵衛はまだまだ顔見せレベル、浜路の今後ともども、この先物語にいかに関わってくることか、楽しみにしたいと思います。
(そして思わぬところでの浜路転生回収には噴きました)


 いずれにせよ、原典にない物語を描きながらも、確かにその中に原典の息吹を感じさせ、そしてそれと同時に、原典を見つめ直そうという視線を感じさせる本作。この先の章も、追って紹介したいと思います。


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