平松伸二『大江戸ブラック・エンジェルズ』第2巻 豪腕! 帰ってきた(?)あの男
あの黒い天使たちが江戸に登場!? と大いに驚かされた『大江戸ブラック・エンジェルズ』の続巻が登場しました。雪藤がいれば当然――というわけで、ついに超人的パワーのあの男が登場。さらに鷹屋たちの思わぬ過去が交錯し、さらなる外道との戦いが繰り広げられることとなります。
売れない絵ばかり描いている浮世絵師の青年・雪士の裏の顔――それは許せぬ悪を密かに始末する殺し屋。鋭く骨を尖らせた唐傘をはじめ様々な武器でもって、次々と外道を地獄に落としていく凄腕であります。
そしてその最中に出会った鷹屋重三郎、ハシム、亜里沙らもまた、密かに外道を地獄に送るいわば同志。時に協力して巨悪と対峙してきた雪士と鷹屋たちですが、雪士が「写楽苦」の筆名で描いた浮世絵がもとで、鷹屋が奉行所に連行されて……
と、第1巻では雪士たちのキャラクター紹介と、寛政の改革における表現規制を巡る争いが描かれたのですが、この巻ではそちらは冒頭で一段落し、新たなキャラクターの登場と、鷹屋たちの過去を巡る戦いが展開することになります。
回向院の勧進相撲(なにげに恋吹雪が……)の大一番で、大関らしからぬ相撲ぶりと行事の忖度で疑惑の勝利を収めた灰汁津藩主・家影のお抱え力士・雷砲。その勝利にもの言いをつけた葛飾村から出てきたという絵師志望の青年・松田は、飛び入りの一番で雷砲をKOしてのけるのでした。
しかし雷砲の醜態に激怒した家影の指示で、灰汁津藩士と雷砲の闇討ちを受ける松田。膾に刻まれながらも不死身の体力で返り討ちにした松田を助けた雪士とハシムですが、実は鷹屋たちには家影と深い因縁が……
というわけで、ブラック・エンジェルズの再結成(?)に、あの男が出てこないわけがない! と満を持して登場した松田。本作での松田は、葛飾の農民の子ながら風景画を得意とする変わり種――しかし暴れ牛をブレーンバスターでブン投げるほどの怪力で、曲がったことには黙ってはいられないという豪傑であります。
しかし少々意外なのは、ここで一旦松田は数話ダウンして、鷹屋たちの過去に物語の焦点が移ることです。
奉行所に連行されて尋問されようとも全く臆さず、それどころか老中が聞き耳を立てているのを承知の上で聞えよがしに政道に――武士として反論しようがない正論を交えつつ――物申してみせる。そんな一介の版元とは思えぬ胆力を見せる鷹屋の正体は、かつて家影に仕えた武士……
そんな鷹屋が何故というのは、これは実に本作らしい外道である家影の存在が――というわけで、松田の一件を機に堪忍袋の緒が切れた鷹屋たちの怒りが爆発。過去のシリーズでもなかったのでは、というドン引きものの凄惨な仕置が行われることになります。
この家影のキャラ造形が、今日日なかなか見られないようなもの――というのはともかく、この家影の乱行が今まで咎められなかった理由や、老中・松平定健のいかにも悪人そうな義父の存在といい、この先の展開を予感させます。
(しかし明らかに松平定信が定健となっているのは、これは『マーダーライセンス牙』的理由なのかしらん)
何はともあれ、この巻のラストで雪士たちの正体を知り、強引に仲間入りすることとなった松田。正直なところ、刑事としてのバックボーンもなくサングラスも黒ずくめルックもない松田というのは――いかに復活以降の松田が、ほとんど「松田という概念」になっているとはいえ――まだピンとこないのですが、その辺りは今後の展開に期待というところでしょうか。
しかしあっさりと出自がわかった鷹屋ですが、まだ裏があるんじゃないかと疑ってしまう……(しつこい
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