上田秀人『辻番奮闘記 四 渦中』の解説を担当しました。
本日発売の『辻番奮闘記 四 渦中』(上田秀人 集英社文庫)の解説を担当しました。平戸松浦藩の藩士・斎弦ノ丞が「辻番」として奮闘を繰り広げるシリーズ、約二年ぶりの新刊です。
時は江戸時代前期、島原の乱後――外様大名への締め付けを強める幕府へのポイント稼ぎのため、辻番を強化することとした松浦藩。その一人として選ばれた斎弦ノ丞は、乱のきっかけとなった寺沢家と松倉家が引き起こした事件に相次いで巻き込まれることになります。
一歩間違えれば松浦家を巻き込みかねないこれらの事件の影響を最小限に食い止め、出世した弦ノ丞は、平戸に帰国することになりますが――折しも松浦家が新たに長崎警固の助役を命じられることになったことから、その下調べとして長崎に派遣されるのでした。
しかしそこでも騒動に巻き込まれた弦ノ丞は、なんとなんと長崎奉行から長崎辻番を命じられることに――というのが、シリーズ第三作までの物語。本作ではこの展開を受けて、斎弦ノ丞と仲間たちの長崎での奮闘が、いよいよ本格的に始まることになります。
ここで舞台となる長崎は、平戸にあったオランダ商館が長崎に移転され、にわかに活気付いた時期。それに加えて島原の乱の余波で、日本脱出を試みる切支丹たち、あるいは幕府への怨念を抱く浪人たちが流入して、一気に治安が悪化――と、何が起きてもおかしくない町になった、というシチュエーションがユニークであります。
それに加えて、松浦藩と長崎を結ぶある暗部(これが史実ながらこれまであまりフィクションの題材となったことのない事件)がクローズアップされ、それがさらに江戸にまで繋がり――と、地方(外様大名)と中央(幕閣)との間の緊張関係が今回も描かれていくことになります。
解説ではこの辺りの題材選びの妙、構成の面白さ等に触れましたが、もう一つ、昨年が作者が『将軍家見聞役元八郎 竜門の衛』でデビューしてから二十周年という一つの節目であることに着目しました。
現在が作者にとって新たなフェーズにあること、そしてそこにおいて何が描かれようとしているのか、という点に持論を展開しています。
初めての上田作品の解説ということで、そして二十年来のファンとしての想いも込めて、これまでの振り返りも入ったちょっぴり概論的な内容――といいましょうか、解説の方もぜひご覧いただければ幸いです。 どうぞよろしくお願いいたします。
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