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2022.03.07

峰守ひろかず『今昔ばけもの奇譚 五代目晴明と五代目頼光、宇治にて怪事変事に挑むこと』 怪異との対峙の末に彼らが見出すもの

 安倍晴明と源頼光といえば、今なお名を残す平安のゴーストハンターですが、その五代目に当たる安倍泰親と源頼政もまた、大物妖怪と対決した人物です。本作はその泰親と頼政の二人がバディとなって、宇治を舞台に様々な怪異に挑む、何ともユニークなミステリであります。

 豪傑・源頼光の五代目の子孫である頼政は、お人好しで武芸よりも和歌を好む、ちょっと頼りない青年。ある日、関白・藤原忠通に呼び出された彼は、忠通の父・忠実が隠棲する宇治の警護を命じられるのでした。
 実はこれは左遷も同然、落ち込みつつ宇治を訪れた頼政ですが――そこで忠実から、人魚の肉を食べて不老不死になったという女性・橋姫が、人々からお布施を巻き上げているのを取り締まるよう命じられことになります。

 しかしいざ対面した橋姫に、あっさりと言い負かされてしまう頼政。途方に暮れていた彼は、藁にも縋る気持ちで、平等院に籠もっているという陰陽師を訪ねることになります。
 そこで対面した相手はまだ十代半ばの少年。ところが彼は安倍晴明の五代目の子孫・泰親と名乗るではありませんか。橋姫の話に興味を持った泰親が、彼女の前で語るのは……


 酒呑童子をはじめとする怪異と戦った源頼光。そしてその手助けだけでなく、様々な伝説を持つ安倍晴明。しかし奇しくも共に彼らの五代目に当たる頼光と泰親も、大妖を退治したと後世に知られている人物であります。
そう、頼光は鵺を、そして泰親は九尾の狐を――そんな二人がコンビを組んで、この二体をはじめとする様々な怪異に挑むと聞けば、好きな人間には黙っていられないでしょう。

 しかし本作は、いわゆる陰陽師ものとは大きく異なる物語であります。確かに、頭の回転が早いけれども偏屈者の陰陽師と、お人好しで良識的な武人のコンビというのは、陰陽師ものでは定番中の定番ですが――本作の泰親が使うのは術ではなく知恵と知識。怪異の陰に隠れた真実を暴くのが彼の役割なのです。
 なるほど、本作で繰り返し泰親が述べているように、陰陽師が実際に用いるのは魔術妖術ではなく、天文暦法。それが構成では魔術師のように扱われているのは、晴明が神格化されたためだと思われますが――何はともあれ、妖怪や怪異としか思えぬ事件の数々を、二人が合理的に解き明かしていくのは何ともユニークかつ痛快なものがあります。
(もっとも、それだけでは終わらないのですが……)

 先に述べたのは第一話「人魚を食った橋姫」ですが、ここで登場した外術師の娘・玉藻(!?)もレギュラーに加わって展開する物語は全五話――
 貴族や金持ちの屋敷が猿・虎・蛇が合わさったような物の怪に次々と襲われる事件を二人が追う「鵺の啼く夜」
 玉藻が助けた記憶喪失の男が竜宮城から帰ってきたと語ったことから、思わぬ騒動に発展する「竜宮帰り」
 ある高位の人物と悶着をおこした末、側室になるか死罪かを選ばされる事となった玉藻を救うため、二人が奮闘する「妖狐玉藻前」
 占術の大名人を自称する怪人・阿久路童子の、平等院宝蔵に収められた鬼の王の首が奪われるとの予言に泰親が挑む「鬼の王の首」

 鵺も玉藻前も織り込んで、小説界きっての妖怪好きである作者らしい匙加減で描かれる、虚実皮膜の間を縫う物語は、妖怪もの・陰陽師もの好きにこそ読んでいただきたい内容となっています。

 その中で一つ、特に印象に残ったものを挙げるとすれば、どう見ても浦島子の伝説そのままの人物が出現、この人物が語る数百年前の華やかな京の有り様に、貴族たちがすっかり魅せられてしまうという「竜宮帰り」でしょうか。時代背景と絡めた趣向の面白さはもちろんのこと、その謎解きと物悲しい真実は、本作ならではの味わいと感じます。


 さて、本作でもう一つ印象に残るのは、成長小説的な側面であります。これまで何度も述べたように、本作の主人公二人は伝説的な人物の子孫ですが――しかし本人たちにとっては、それはむしろいい迷惑として描かれます。自分は自分であって、過去の人間たちは関係ない、と。

 かくて二人は、それぞれの形で、勝手な世間の眼に反発することになります。しかし自分自身とは、自分らしい生き方とはなんでしょうか?
 そんな想いを抱えた二人は、怪異との対峙、怪異の謎解きを通じて、自分自身を見つめ直すことになります。そしてその先に見出すのは、「昔」に縛られることのない、真の彼らにとっての「今」の始まりなのです。

 ユニークな平安伝奇ミステリであると同時に、歴史上の人物を通じて自己を確立することの意味を(そして一つの歴史の始まりを)描く――本作はそんな物語です。


『今昔ばけもの奇譚 五代目晴明と五代目頼光、宇治にて怪事変事に挑むこと』(峰守ひろかず ポプラ文庫ピュアフル) Amazon

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