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2022.03.04

安田剛士『青のミブロ』第1巻 少年の叫びとそれを導く壬生の狼たち

 漫画においては、新選組を一種の青春もの(ある意味学園もの)として描く作品が少なくない印象ですが、本作はその最新の作品――歴史に残らぬ新選組の少年隊士を主人公にした物語であります。団子屋で働く少年「にお」が見た新選組の姿、そして彼が求める正義とは……

 1863年の京都、血の繋らない妹・いろはとともに団子屋で働く白髪の少年・におの前に現れた二人の青年――クールな優男・土方と、明るく賑やかな沖田。侍姿でありながら気取らない二人に好感を抱くにおですが、大人たちは彼らを「みぶろ」と呼んで嫌悪し、関わらないほうがいいと忠告するのでした。

 数日後、いろはと共に家に変える途中のにおを襲う覆面の男たち。最近京を騒がす、幼い子ばかりを狙う人攫いの一味からいろはを守ろうとするにおですが、そこに現れたのは土方と沖田でありました。
 鮮やかな手並みで人攫いたちを倒していく二人。しかしそこでにおがある事実に気付いたことから、犠牲は最小限に抑えられるのでした。

 翌日団子屋に現れ、におを浪士組に入らないかと誘う土方。しかし二人が自分たちを囮に使ったことに憤るいおは、子供が犠牲になる世の中への怒りと、無力な自分自身への怒りを叫ぶのでした。
 そしてその思いを静かに受け止める土方。かくてにおは、浪士組の一員として壬生に向かうことに……


 というわけで、土方に従って浪士組の屯所を訪れたにおですが、そこで待っていたのは「鬼の棲み家」という町の悪評とは裏腹に、賑やかで能天気な男たちの群れ。
 そこでいきなり同年代の少年「はじめ」と相撲勝負をすることになったにおですが、そこに相撲では周囲に恐れられている近藤が乱入、さらには芹沢五人衆まで――と世評とのあまりの落差に笑いすらこみ上げるにおですが、しかしもちろんそれは一面に過ぎません。

 その晩、天誅を行った過激派浪士の根城に踏み込む土方と沖田に付き従い、浪士の実態と、土方が浪士を問答無用で叩き斬る姿を目の当たりにしたにお。自分自身の寄って立つ正義に悩むようになったにおは、近藤と土方と共に出た京の町でさらなる事件に巻き込まれて……

 と、第一話での魂の叫びに続いて、本作ではその後も次々と事件――というよりこの京で起きている争いの実態を目の当たりにして、様々に悩むにおの姿が、描かれることになります。――が、本作はもちろん悩むのみで終わるものではありません。
 そんなにおの悩みを時に見守り、時に受け止め、時に道を示すのは、土方や沖田ら先輩隊士たち。本来であれば彼らもまた、悩みの中にあるのかもしれませんが――しかしこの第一巻においては、彼らの姿は実に格好良く、その姿には胸を熱くせざるを得ません。

 特に、物語当初からにおの兄貴分として存在する沖田と土方は、イメージどおりに脳天気なほど明るく振る舞いながらも、人生の先輩としてにおを導く沖田、そして基本的に鉄面皮ながら、口を開けばグッと泣かせる言葉を語る土方と実に良いのですが――ここで作者の過去の作品『黒猫DANCE』を思い出してしまうのは、マニアの悪いクセでしょうか。

 少年時代の沖田を主人公に、土方を重要なキャラクターとして描きつつも、短期で終了した『黒猫DANCE』。もちろん本作とは別の作品ではありますが(しかし『振り向くな君は』と『DAYS』の例もあり……)、そこでまだ青いまま駆けていた彼らが、今度は導く側に回ったと考えると、何とも感慨深いものがあります。


 しかし、浪士組の先輩たちが皆、におを受け止め、導く者ではありません。初登場時は予想外にコミカルな顔を見せた芹沢ですが、この巻の終盤では殿内を粛清。そしてその始末を、奴隷のように扱っている少年「太郎」に命令――と、その黒々とした姿を見せることになります。

 そしてこの太郎という少年こそは、本作における二人目の若き狼――良くも悪くも青いにおとは対照的に、この世の辛酸を嘗め、冷めきった態度で芹沢に従い、その手を汚す少年。そんな彼を、におは救うことができるのか――次巻では三人目も登場するとのことで(顔は既に見せている?)、先が早くも気になる展開です。


 しかし本作で唯一気になったのは、およそ時代ものらしからぬ浪士組隊士たちのビジュアル。2ブロックパーマの芹沢は妙に違和感ないのですが、前分け口ひげの永倉はさすがにどうか……


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