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2022.03.19

風野真知雄『いい湯じゃのう 二 将軍入湯』 誕生、銭湯探偵吉宗!?

 天一坊事件を題材としつつ、登場人物と事件のほとんど全てに「湯」「風呂」が絡むという、実にユニークなシリーズの第二弾であります。吉宗が目安箱への訴えから市中の湯屋に興味を持ち、お忍びで入ることとなった一方で、彼の初恋の人探しを命じられたお庭番コンビは……

 とてつもない肩の凝りに悩まされる徳川吉宗。その吉宗の数少ない楽しみであった熱海を始めとする各地の温泉は、何故かどこも不可解な事態が発生し、江戸までお湯を持ってくることが不可能となります。
 この事態の原因を探るべく派遣された腕利きくノ一のあけびと、伝説のお庭番・湯煙り権蔵は、各地の温泉で暗躍する謎の一団の存在を知るのでした。

 一方、江戸の湯屋で評判となっている若き山伏・天一坊に興味を持った大岡忠相は、その弟子・山内伊賀亮から、天一坊が吉宗のご落胤と聞かされ仰天することになります。
 さらに町火消しの丈次が、一度は将軍様も江戸の湯屋に入ってみてはどうかと目安箱に投じたのをきっかけに、吉宗は湯屋に入りたいと言い出して……

 と、吉宗の時代に起きた大事件としてお馴染みの天一坊事件が描かれる(ことはまず間違いがない)本シリーズなのですが、この巻では前巻以上に思わぬ方向に物語が転がっていくことになります。


 まず物語の中心となるのは、なんといっても吉宗なのですが――この巻では彼が、丈次が常連の湯屋・富士之湯に入湯。これはもちろん身分を隠してのお忍びですが、しかし万が一にも失敗は許されないと、周囲の人間たちが江戸城内に寸分違わぬサイズの模擬富士之湯を作ってしまう――という時点で既に何かが可笑しい。
 そこでしっかり予行演習を済ませた上で湯屋に向かう吉宗とお供の三人(老中×2+勘定奉行)なのですが、ここでもアクシデント連発。しかしアクシデントの最たるものは、そこで吉宗がとある事件に巻き込まれ、それをあっさりと解決してしまったことでしょう。

 かくて富士之湯がすっかり気に入り、何度も訪れるようになった吉宗ですが、そのたびに丈次たちから頼りにされて――と、吉宗は、湯屋で起きる日常の謎に挑むことになってしまうのであります。この辺りは、まさに作者お得意のライトミステリの趣向というべきでしょう。


 しかし吉宗がそんなことをやっている間に、権蔵とあけびは、吉宗が若き日に紀州で愛した女性の行方捜しという新たな密命を下されることになります。
 忠相から天一坊の年齢を聞かされた吉宗ですが――丁度その時期に、紀州の温泉で出会い、恋に落ちた娘がいたのであります。が、問題はそれが二人いたことで……

 はたして天一坊はどちらの子なのか、はたまた全く関係ないのか。温泉に絡むことなら、それも美人が絡むことなら知らぬことはない――という説得力があるのかないのかわからない理由でこの任務を命じられた権蔵、そして本当に嫌々ながら報償に釣られて彼のフォローに回ることになったあけびですが、二人の行く先には何やら暗雲が……

 と、実はこちらのコンビの出番は今回はちょっと控え目なのですが、中年親爺のダメなところを集めたような権蔵と、現代っ子(?)くノ一のあけびの凸凹っぷりには相変わらず独特の呑気さがあります。
 こちらも深刻さとは無縁で安心して読めるという点では、吉宗サイドと同様といえるでしょう。


 と、基本的に善人か抜けた人間ばかりが登場する本作なのですが、そんな中でただ一人、純粋な悪人が山内伊賀亮――天一坊事件をご存じの方であれば頷かれることと思いますが、天一坊の軍師として暗躍したと言われる人物であります。
 本作においても天一坊を背後から操り、大権を握らんとする伊賀亮ですが、はたして彼だけ悪役を背負っていて大丈夫なのか、と思っていたら終盤になんと! という新キャラクターが登場することになります。

 作中にこれまでいなかった(そしてこれはこれでまた作者らしい)、そしてある意味ネームバリューあるキャラの登場に、ますますこの先の展開が読めなくなってきたシリーズであります。

(そして前作で、さらっと気になることが書かれていた彼の今後も気になるところですが……)


『いい湯じゃのう 二 将軍入湯』(風野真知雄 PHP文芸文庫) Amazon

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