赤名修『賊軍 土方歳三』第6巻 迫る復讐鬼 そして義を衛る男!
まだまだ続く会津での死闘。新政府軍の目を惹きつけるために出撃した土方と新選組の前に、強敵・板垣退助と過去からの復讐鬼が立ち塞がります。そして庄内藩に援軍を求める途中、米沢に立ち寄った土方と沖田に襲いかかる敵の群れに、義を衛るためあの男が起つことに……
会津に依り、必死の抗戦を繰り広げる土方率いる新選組と旧幕府軍。土方は、奥羽越列藩同盟の中核である会津を潰すため、大久保利通が企てた現藩主の、そして前藩主・松平容保の暗殺計画を辛うじて防ぐことに成功します。
そんな中で土方が知ることとなった奥羽越列藩同盟逆転の秘策――それはなんと、ビスマルク率いるプロシアの援軍でありました。海外勢力の介入は禍の元と反対する土方ですが、既に全ての責任を背負って死ぬ覚悟を決めていた容保の決意は変わりません。
そしてそこに攻撃を開始する板垣退助率いる新政府軍――その中には、池田屋の恨みを文字通り背負った百村発蔵がいました。板垣の近代戦術と、百村の執念が、土方を追い詰めることに……
というわけで、この巻の前半で描かれるのは滝沢本陣を巡る戦い。かつての近藤のような覚悟を見せる容保を前に自分の無力さを嘆く土方ですが、だからといってむざむざと主君を討たせるわけにはいきません。
かくなる上は自分たちが敵の目を惹きつけると覚悟を決めた土方ですが――目を惹きつけるといえばこれだ! とばかりに、誠の旗とダンダラの隊服で突撃を仕掛けるのは、これはいかにも本作らしい痛快さというべきでしょう。
しかしこの隊服を見るやエキサイトするのが百村。以前、第2巻の白河口の戦いで登場した際にはあまり印象に残りませんでしたが、今回は彼が新選組――というか土方を恨む理由が描かれることになります。そしてそれがまた、これはどう考えても土方が悪いのですが……(本当に想像以上に悪い)。
ところがこの先の展開で、この悪印象をひっくり返してみせるのですから何とも心憎い。この辺り、土方の格好良さを描かせたら本作は実に巧いものです。
そして、この巻の後半で描かれるのは、いよいよ籠城が決定的となった中で、庄内藩に援軍を請いに行く土方と市村鉄之助(実は沖田総司)の姿。その途上、米沢に弾薬補給を請いに立ち寄る二人ですが、ここで意外な人物が登場することになります。
その名は永倉新八――言うまでもない、新選組二番隊組長として活躍したあの永倉ですが、実はこの時期、米沢に身を寄せていたというのは紛れもない史実。とはいえここで永倉を登場させるというのも、本作ならの趣向というべきでしょうか。
その永倉、本作ではドレッドヘアというまたインパクト満点のビジュアルなのですが、ある理由から土方と対峙することに。元々、甲州での敗北後に近藤の言動が元で袂を分かった男だけに、それはそれで違和感がないようにも思えますが――しかしここから物語はさらに二転三転します。
既に降伏を決意した米沢にとって土方たちは邪魔な存在、その刃が沖田に迫ったとき永倉は――お約束とはいえ、やはりグッとくるものがあります。
思えば本作は、原田といいこの永倉といい(そして考えてみれば沖田も)、一度は袂を分かった隊士をも――ファンが見たかった形で――描いてきました。もちろんそれはあくまでも一種の「夢」なのですが、それでもやはり、嬉しいものは嬉しいのは言うまでもありません。
そしてこの巻のラストでは、これまた泣かせる「再会」が描かれるのですが――しかしそんな中でも、会津は刻一刻と追い詰められている状況にあります。
落城目前の会津を本作がどのように描くのか、そしてそこで土方たちがどのような役割を果たすのか――嬉しがってばかりはいられない、苦い展開が次の巻では待っているようです。
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