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2022.04.07

伊藤勢『瀧夜叉姫 陰陽師絵草子』第3巻 現在と過去を行き交う物語

 もはや漫画版というより伊藤勢版と言ったほうが正しい気がする『瀧夜叉姫』第3巻であります。同時多発的に起きていた怪異の数々はついに一つの過去に集約され、現在と過去、二つの時代を舞台に、物語は展開していくことになります。

 この巻の冒頭で語られるのは、後に一族が様々な鬼と関わる源経基の夢の中に、夜毎現れては彼の体中に太い釘を打っていく女の怪。これで、この物語において怪異や奇怪な事件に巻き込まれた人々は、五人目になります。

 「盗らずの盗人」に襲われた小野好古と俵藤太
 蘆屋道満でも手をつけかねる奇怪な瘡に悩む平貞盛
 盗らずの盗人を引き連れた姫との因縁があるらしい浄蔵
 そして夜毎の呪詛に悩まされる源経基

 これだけ怪事が続けば、さすがに晴明もとぼけているわけにもいかず、そして晴明と博雅の前に現れた賀茂保憲が、晴明秘蔵の酒を奪う――じゃなくて藤原師輔が五頭の蟒蛇に襲われたことを語るに至り、ついに彼らの共通点が、晴明と保憲の口から語られることになります。
 そう、二十年前、新皇を称して関東で乱を起こした平将門と関わりがあったという共通点が……


 というわけで、ついに語られることとなった将門公の名。この巻の後半ではいわゆる平将門の乱に至るまでと、その結末(の一部)が、かなりのページ数を割いて語られることになります。

 関東において、平氏の一族の内紛が続発し、そしてその中心にあった将門がついに蜂起、新皇を名乗って坂東八州を攻め従えた末に討ち滅ぼされた――要約すれば数行ですが、しかしそこには数々の人々が関わり、そして彼らの思惑が複雑に絡み合っています。
 その絡み合った糸を本作は丹念に描いていくのですが――そこに見え隠れするのは将門公ではなく、彼と共に行動したという興世王の姿。この正体不明の人物を、本作は乱の火に油を注いだ地獄の道化師として描きます。

 この興世王の不気味さと凶人ぶりたるや、胸が悪くなるほどですが、しかしそのデザインたるや、そうきたか、と言いたくなるようなもの。
 この巻で表紙を飾りつつも、本編の出番はごく僅か――しかしもちろんインパクトは抜群――の将門公と合わせ、この先描かれるであろう本格的な暴れぶりが今から恐ろしい、と言うべきでしょうか。

 そして過去といえば、この乱の直後に京で起きた、百鬼夜行による惨劇もまた、この巻では描かれることになります。
 この百鬼夜行は、第1巻の冒頭、幼い晴明たちが遭遇したものであり、そしてここで描かれたのはその直後の出来事という繋がりが見えてくるのも興味深いのですが――この辺りの物語の全体像が見えてくるのは、まだ先であります。


 その全体像ももちろん気になるわけですが、しかしそれはそれとして見逃せないのは、やはり本作ならではの晴明と博雅の関係性でしょう。

 原作ではスルーされてきた、一介の得業生と殿上人(というより皇族)という二人の身分の大きな違い。本作はそれををクローズアップし、ある種の緊張を孕んだやりとりを描きます。
 表面上(?)博雅の身を気遣う晴明と、晴明のことは開けっぴろげに信頼する博雅と――それぞれ一方通行なような微妙に通じ合っているような二人の関係。しかしそれはそれで気のおけない間柄が浮き彫りになっていて、原作とはベクトルが異なりつつも、実に「らしい」関係だと感じます。

 そして考えてみれば、原作そのままではないにもかかわらず「らしさ」が濃厚に感じられるというのは、本作全般に漂う空気でもあるわけで、主人公二人はまさにそれを体現しているとでもいうべきでしょうか。

 それにしてもこの巻の終盤、源経基の屋敷で、梁の上の呪詛を探すために平然と博雅の肩を踏み台にする晴明と、それを事もなげに許す博雅というくだりがあるのですが――人前でこれをやるというのは、ある意味大変ないちゃつきっぷりなのでは……


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