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2022.04.27

東直輝『警視庁草紙 風太郎明治劇場』第2巻 敵たる「警視庁」こそを描く物語

 山田風太郎の記念すべき明治もの第一作である『警視庁草紙』――その漫画版待望の続巻であります。不平士族たちが起こした岩倉具視暗殺未遂。思わぬなりゆきで、警視庁よりも早くその下手人たちを見つけ出さなければならなくなった兵四郎たちですが、はたしてそううまくいくでしょうか?

 隣家で起きた奇怪な密室殺人の容疑者にされた三遊亭圓朝を救い、警視庁の鼻を明かすため、三河町の半七や冷酒かん八とともに動いた元八丁堀同心の千羽兵四郎。
 その最中に、事件の背後に元旗本の娘・雪を巡る男たちの愛憎があったことを知った兵四郎は、この事件を題材に怪談を仕立て上げて、ひとまず丸く収めることに成功して……

 という第一章「明治牡丹燈籠」に続く、「黒闇淵の警視庁」がメインとなるこの第二巻。前巻のラストでは、牛鍋屋で泥酔した挙げ句、人一人斬り殺した土佐士族の一件が描かれ、これが嵐の前兆ではないかと兵四郎が考える姿が描かれましたが――はたしてその予感は的中することとなります。

 赤坂仮御所から馬車で帰宅しようとしたところを、赤坂喰違坂で刺客たちの襲撃を受け、辛うじて命永らえた岩倉具視。右大臣襲撃に激怒した大久保利通の命で下手人捕縛に動きだした警視庁ですが――それが兵四郎たちに思わぬ影響を与えることになったのです。

 というのも前話のヒロイン・お雪の夫・源次郎は、岩倉暗殺を狙っており、今回の企てに間違いなく加わっている人物。ここで源次郎が捕らえられれば、そこから芋蔓式に圓朝、そして兵四郎たちがお縄になりかねない上に、お雪も自害しかねないのであります。
 かくてお雪のため、そして自分たちのために下手人たちを探す羽目になった兵四郎たち。しかし組織も人員も遥かに上の警視庁を出し抜いて見つけられるはずもなく、兵四郎が頼ったのは「隅の御隠居」こと元江戸南町奉行・駒井相模守で……


 と、前巻ではほのめかされる程度であった兵四郎たちの知恵袋である隅の御隠居がついに登場するこのエピソード。
 警視庁に抗する元同心と元岡っ引き・元下っ引きの上にいるのが元町奉行というのはある意味道理ですが――しかし何やら維新とともに旧幕の役人たちはどこかに吹き飛んでしまった印象が勝手にあるなかで、こうした人物配置を用意してみせるのは、やはり見事というほかありません。

 そしてその一方で、兵四郎たちにとっては敵方に当たる警視庁側の描写もいよいよ気になってくるところで、特に幕末ファンにとっておっと思わされるのは、やはり藤田五郎巡査の「活躍」であります。
 前巻でもちょい役ですが顔を見せていたこの人物が誰であるか、多くの人がご存知かと思いますが――今となっては定番となった感のある、明治を舞台とした作品でのこの人物の登場は、この原作が嚆矢ではないものの、初期のものであることは間違いないでしょう。

 この漫画版での藤田氏は、むしろ飄々としたものを感じさせる容姿と言動ながら、時に凄みを感じさせるという存在感で、この後の第三章冒頭での出番も、実にいい感じであります。(そしてこの場面で登場する元見廻組の「今井」巡査も……)

 今更ではありますが、本作はそのタイトルが示すとおり、実は敵方たる「警視庁」こそがメインとなる物語。警視庁の面々を如何に描くかというのは、本作の成否にもかかわってくるのですが――それはいまのところ成功していると感じます。


 さて、第一章に比べるとトリックや仕掛けといった点ではちょっと薄味であったものの、時代のうねりに翻弄される人々を描くという点においては、なかなか印象に残るものがあったこのエピソード。
 特に原作からアレンジされた結末は、時代の闇の中に消えた者たちへの鎮魂の念と、兵四郎の屈託を感じさせる巧みなものであったと感じます。

 そして前巻同様、今回も物語の大筋は変えぬまま、その場に登場する人物の顔ぶれや台詞を語る者、描写の時系列を巧みに入れ替えて、独立した漫画としての面白さを生み出しているのにも、大いに好感が持てるところです。
(しかし半七の口調は相変わらず違和感……)

 さて、この巻の後半からは第三章「人も獣も天地の虫」がスタート。警視庁による地獄(私娼)摘発が、鎮台兵との思わぬ衝突を招き、そしてさらに事態は兵四郎の恋人・お蝶の周囲にまで波及し――と、これまたまだ先は見えないものの、これから何が起きるのか、そしてそこで兵四郎と警視庁がいかに動くのか、早くも大いに興味をそそられる展開なのです。

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