安田剛士『青のミブロ』第2巻 少年たちの光と影 そして三人目の少年
幕末の京を駆け抜けた壬生狼こと新選組――その中で歴史に名を残さなかった三人の少年を中心に描く、異色の新選組漫画の第二巻であります。土方にスカウトされて新選組(浪士組)に加わった少年・におと、芹沢の下僕としてこき使われる太郎、そして第三の少年とは。新たな波乱がにおを待ち受けます。
血の繋がらない妹とともに団子屋で働く中で、京を騒がす人攫いの一味と土方・沖田の対決に巻き込まれたにお。その中で、自分たち子供が犠牲になる世の中と、無力な自分への怒りを爆発させたにおは、土方から誘われて新選組に加わるのでした。
そんなにおが見た新選組は、豪快で賑やかな若者たちの群れだったのですが――その一人・芹沢が、同志であるはずの殿内を殺害。その死体の始末を命じられたのは、芹沢から奴隷扱いされている少年・太郎でした。
自分と同年代の太郎に関心を持ったにおは、太郎に無理やり同行するのですが……
第一巻では基本的に格好良い姿、明るく豪快な姿が描かれた新選組。しかし早速その陰の姿が、このエピソードでは描かれることになります。それが殿内義雄の粛清――定説では近藤たちに斬られたとされる殿内ですが、本作では酒に酔った芹沢が斬ったという展開。そしてその隠蔽ににおと太郎が駆り出されることになります。(正確にはにおは無理やり押しかけただけなのですが……)
主人公であるにおは、幼い頃に両親を失いながらも親切な老婆に拾われ、すぎるほど真っ直ぐに育った少年。一方の太郎は、におのようには周囲に恵まれず、時に卑屈に、時に冷淡に、己を押し殺して生きてきた少年であります。
いわば光と影のような二人ですが、その姿は同時に、新選組という組織の持つ二つの顔を象徴しているような印象があります。
そしてその影の側に立つ太郎が、強引に殿内の死体を始末しようとしたのに対し、におがどのように対処したか――それも興味深いのですが、むしろメインとなるのはその後。その対処に激怒した芹沢に呼び出されたにおが芹沢に対して何を語るか――それがこのエピソードのクライマックスといえるでしょう。
正直なところ、ここで描かれるのは「新選組」にとってはかなり都合の良い展開ではあります。しかし土方のフォローもさることながら、単純な暴君でもなさそうな芹沢の素顔が、「大人」たちの一筋縄ではいかない顔を示しているようでユニークに感じられます。
そして続くエピソードでフィーチャーされるのは、第三の(正確には第二の)少年――はじめこと斎藤はじめであります。前巻でも相撲でにおと対決した少年ですが、いうまでもなく彼こそが斎藤一(なのでしょう、おそらく)。
京に着いてから近藤がどこかから連れてきたという彼は、基本的にはただの少年にすぎないにおや太郎とは別格の、既に達人の風格すらある剣士であります。
そんなはじめと、彼に物怖じせず積極的に絡んでいくにおの小さな冒険がここでは描かれることになります。
相次ぐ不運からノイローゼのような状態となり、自分の子を人質に立て籠もった男と遭遇した二人。「俺たちの敵の名前がわかるか!?」と荒れる男を容赦なく斬り捨てようとするはじめに対し、におは何とか命を奪わずに済ませようとするのですが……
と、ここでも、ある意味理想論的というか、優等生的な態度を見せるにおなのですが、しかしここで「俺たちの敵の名前」を問う男の姿は、自分の正義を求めて悩むにおの姿の裏返しというべきものなのでしょう。
だからこそ、ここで男を見捨てず、真摯に応えようとするにおの姿には、嫌味ではない等身大の少年の感情が感じられるのです。
というわけでついに揃った三人の少年。生真面目で優等生のにお、臆病で卑屈な太郎、冷徹な剣士のはじめと、全く異なる個性の三人が、この先新選組で何を見ることになるのか――何よりも、どうしても綺麗事で済ませられないこの先の新選組の歴史を、におがどのように受け止めるのか、大いに気になるところです。
しかし題材が題材なだけにヘビーな印象は否めない本作ですが、合間合間に挟まれるギャグのテンポが非常に良く、そういう面でもなかなか魅力的な作品であります。
(特に近藤の鉄面皮の変人キャラがいいのです)
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