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2022.04.11

松井優征『逃げ上手の若君』第5巻 三大将参上! 決戦北信濃

 鎌倉執権家の生き残り・北条時行が逃げまくりながら鎌倉奪還のために奮闘してきた本作、1333年から始まった物語もついにこの巻でついに1335年に入ることになりました。小笠原貞宗との一対一の対決から時行は逃れることができるのか、そしてついに始まった諏訪勢と国司・主語連合の戦の行方は……

 信濃の新国司・清原信濃守の横暴に耐えかねて不利な戦に臨む北信濃の武士たちを、戦場から撤退させるという高難度のミッションを成功させ、武士たちに将器を示した時行。
 しかしその正体は伏せてきたものの、これまで幾度となく煮え湯を飲まされた小笠原貞宗が、時行の正体を暴いてやろうといよいよ動き出します。

 口実を設けて時行を呼び出し、一対一の対話の中で、自慢の目によって時行の嘘を見顕そうという貞宗。もちろん時行も綿密に準備を重ね、追求から「逃げ」るものの、貞宗はついに奥の手(これが笑っちゃうほどズルい)を出してくることになります。
 この絶体絶命の窮地に、亜也子が思わぬ形で救いの女神となることに……

 と、この巻の冒頭で描かれるのは、戦とは異なる形での時行と貞宗の対決の決着編――というより亜也子の活躍編。前巻では同じく時行最初期からの郎党である弧次郎の活躍と成長が描かれましたが、ここでは亜也子が彼女なりのやり方で時行を救うことになります。

 この後描かれるように、彼女も武門の出であり、そしてその怪力は並みの男では足元に及ばないほど。しかし男と同じではなく――いやそれに加えて、彼女には彼女ならではの技と力があると、このエピソードでは描くことになります。
 弧次郎同様ちょっと埋没しがちであった亜也子ですが、ここできっちりと個性を見せてきた印象です。しかし「ポロリ」がなかったのは、ホッとしたような残念なような……


 そして作中で時は流れ1335年に入り、この巻の大部分を費やして描かれるのは、後醍醐帝の綸旨により親北条勢力討伐を開始した国司・守護連合軍と、北信濃の国人衆の全面衝突の模様であります。

 これまで局地戦では時行たちにしばしば敗れていた印象があるものの、しかし国司と守護である貞宗の軍勢はいわば正規軍、大きな勢力を持っています。これに対して国人衆は、諏訪大社という権威を背負い、そして諏訪の元々の住人として意気軒昂の荒武者たち。
 はたして戦の天秤はどちらに傾くのか――と、数と力が物を言う戦場で、時行たち逃者党の出番はないように思えますが、ここで彼らは、「伝令」という役目を与えられることになります。

 なるほど、機動力が必要であり、捕まらないことが絶対条件である伝令は、逃げ上手の時行にうってつけ。しかしそれ以上に、刻一刻と変わる戦況を目の当たりにしつつ、臨機応変に動くというのは、何よりの将としての実地学習ではあるでしょう。
 そしてメタには、伝令の目を通じることで、北信濃の各地で繰り広げられる戦いを、自然に一つの流れとともに描くことができるわけであります。

 そしてこの戦いで主役ばりの大活躍を見せるのが、諏訪頼重直属の諏訪神党三大将です。右軍大将の祢津頼直、左軍大将の望月重信、中軍大将・海野幸康――いずれも信濃の名家の出であり、そして頼重への忠誠心厚い名将・勇将ですが、やはりいずれも個性的すぎるキャラクターであります。
 特に見るからに渋い歴戦の武人である海野など、本作では珍しいストレートに恰好良いキャラと思いきや、とんでもない魔法つk――いや修羅。すごいんだかすごくないんだかわからない強烈さは、やはり本作の登場人物であります。(魔界転生したら凄そう……)


 そして合戦そのものも、信濃勢が押せば国司・守護連合軍も押し返し、奇手と奇策がぶつかり合う一進一退。なんか凄い覆面の人(と解説名人)が出てきたと思ったら、国司の無茶苦茶な秘密兵器が登場し、そしてあの怪物が再び……

 と、かつてない盛り上がりぶりですが、しかし実はこれは前哨戦にすぎません。何しろ運命の1335年はまだ始まったばかり、これからが真の戦いとなるわけであります。
 はたしてここからどのようにして更なる盛り上がりを見せるのか――大いに期待しているところです。


 しかし護良親王が登場しましたが、後醍醐天皇の方は、この先シルエット以上の登場はあるのかしら……


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