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2022.05.25

かどたひろし『御広敷用人 大奥記録』第1巻 水城聡四郎、「奧」で新たな任に挑む

 以前連載開始時にもご紹介した『御広敷用人大奥記録』の漫画版、その単行本第一巻が刊行されました。上田秀人の代表作である『勘定吟味役異聞』の続編である本作、作画を担当するのは、もちろんかどたひろしであります。大奥に舞台を移した聡四郎の新たな戦いとは……

 勘定吟味役としての激闘の末、結果として徳川吉宗に味方してその将軍継承を助け、そして吉宗を養父とした紅と結ばれた聡四郎。お役目を辞して平和な暮らしを送っていた彼が吉宗に召し出されたことから、新たな物語が始まります。
 吉宗が聡四郎に命じた新たな役目とは、御広敷用人――江戸城大奥の玄関口である御広敷を担当し、大奥と外部との取次ぎを職務とする用人。これまで担当してきた勘定吟味役が「表」とすれば、これはまさしく「奥」――全く異なる世界であります。

 そんなところにいきなり放り込まれることとなった上に、意図や真の任務も教えられず、それどころか「遣える者は酷使する!」「諦めて身分と禄に応じた仕事を致せ!」とブラック上司ぶりを全開する吉宗に、聡四郎はプレッシャーをかけられるのでした。
 実は将軍就任早々、幕政改革に大鉈を振るう吉宗のターゲットの一つが、幕府では聖域扱いとなっていた大奥。その尖兵として送り込まれるのだろうとは想像できるのですが――しかし彼以上に困ったのは、それまで大奥を担当していた者たちであります。

 その中でも実力行使に走ったのは、御広敷伊賀者組頭の藤川義右衛門。ただでさえ御庭番設立で肩身の狭くなった伊賀者の権限を奪われまいと、彼は聡四郎を時に闇討ちし、時に懐柔に走るのですが……


 そんな前途多難な聡四郎の新たな戦いが始まるこの第一巻ですが、内容的にはまだ導入部といった印象。聡四郎にとって、何よりも読者にとっても馴染みの薄い御広敷という場所、御広敷用人の任が紹介されるとともに、この物語の背景となる勢力分布を描くのが、この巻のメインと感じます。

 そんなこともあってか――そしてこれは月刊誌とはまた異なるWeb媒体連載のペースもあるのではないかと想像しますが――この巻では剣戟シーンは控えめ、聡四郎が藤川の闇討ちを受ける場面と、師・浅山一伝斎との道場稽古の場面くらいとなっています。
 その意味では静かな滑り出しといえるかもしれませんが、水城聡四郎ものの――いや上田作品のもう一つの主戦場というべき幕政の闇を描く部分は、これはもう脂が乗りきった筆運びという印象があります。

 吉宗が就任早々に大奥に対して見目麗しい女性をリストアップせよと命じ、側室候補と思って選んでみれば、逆にそれはリストラ対象だった――という有名な逸話は本作でも描かれますが、それはあくまでも表に出た話。
 そもそも吉宗と大奥は、将軍位継承を巡り、月光院は彼を擁立し、天英院は彼と対立したという過去が――この辺りは 現在「コミック乱ツインズ」誌連載中の『勘定吟味役異聞』でこれから描かれるはず――あります。

 そんな、ただでさえ火薬庫のような場所をこじ開けて、松明を放り込むような吉宗の行動ですが、その影響が出始めることとなります。アクションだけでなく、この辺りの動きもじっくりと描けるのは、これはかどたひろしならでは、と言ってよいでしょう。


 ちなみに『勘定吟味役異聞』に登場した面々は、まだ出番が少ないキャラが多いもののこちらにも変わらぬ――唯一、初々しくも美しい若奥様ぶりを見せる紅を除いて――顔を見せているのですが、注目すべきは新顔。
 この第一巻から早くも聡四郎との因縁が発生した藤川は、この先長い付き合いとなる男ですが――油断のならなさとどこか崩れた雰囲気、そして忍び衣装の個性など、なるほどこういう姿になるのか、と感心させられます。

 そしてもう一人、本作のヒロインというべき存在が、この巻のラストに登場することになります。その名は竹姫――五代将軍・綱吉の養女であり、これまで二人の婚約者と婚前に死に別れ、大奥で静かに暮らしていた女性であります。
 実は聡四郎が御広敷用人とされた本当の理由はこの竹姫を吉宗が得るため。今回は文字通り顔見せのみですが、あの吉宗が恋い焦がれるというのですから、どれだけ魅力的な女性なのか、推して知るべしでしょう。約二十歳年下というのはまあ目を瞑るとして……
(にしても、竹姫のことを語る直前、あらぬ相手に気があると聡四郎に誤解された時の吉宗の表情……)


 なにはともあれ、いよいよ始まった聡四郎の新たな戦い。現在クライマックスの『勘定吟味役異聞』ともども、先が楽しみな漫画版です。


『御広敷用人 大奥記録』第1巻(かどたひろし&上田秀人 光文社KJC) Amazon

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