町田とし子『紅灯のハンタマルヤ』第1巻 丸山遊郭の娘たち、人ならぬ怪異を討つ!?
江戸時代、海外に唯一開かれた窓であった長崎を舞台に、長崎奉行所の同心、そして丸山遊郭の太夫と三人の禿が人ならぬ怪異を討つ退魔活劇であります。人ならぬ怪異に抗する力を持つのは、同じ力を持つ者。だとすれば太夫と禿たちは……
19世紀初頭の長崎の奉行所に江戸から赴任してきた同心・相模壮次郎。しかし着任して間もない彼が出くわしたのは、全身の血を抜かれ、「ミルラ」状態となった人間の死体でした。
その現場で、あることに気付いた相模がその足で向かったのは「山」――すなわち丸山遊郭。その中の遊女屋・まるた屋を訪ねた相模は、見世の菊花太夫に、禿たちの貸し出しを要請するのでした。
そしてその晩、郭の若い衆に化けて、死体が発見された店の若旦那の応対をしたものの、正体がばれて窮地に陥る相模。その前に駆けつけた禿たちが見せた力とは……
江戸時代の鎖国下にあって、出島という唯一海外との貿易を許されていた長崎。その極めて特異な性質(と、それに伴う独特の制度)のため、この江戸時代の長崎は、数え切れないほどのフィクションの舞台になってきました。
そして多くの場合、それらの作品の中で大きなウェイトを占めるのが丸山遊郭とその遊女の存在。何故なら、彼女たちの客は日本人だけでなくオランダ人や清国人も含まれ、出島や唐人屋敷といった、一般の日本人が立ち入りを禁止されていた場所にも、足を踏み入れていたのですから。
本作はそんないくつもの意味で特異な地であった長崎と丸山遊郭を舞台とする物語ですが――その最大の特徴が、その遊郭の遊女と禿たちが、異国から渡ってきた妖退治を行うことであるのは、言うまでもありません。
(丸山の遊女たちが裏の顔として隠密を持つという作品はこれまで目にしたことがありましたが、妖退治を行うという作品には、初めて触れた気がします)
人間離れした美しさを持つ菊花太夫、芸事は下手だが人懐っこい雛あられ、三味線が得意で普段は頭巾をかぶっている清、引っ込み思案で顔にシミのあるこもれび――それぞれの特技を持って、人ならぬ妖を打倒する個性的な美(少)女たち。
しかし、人ならぬもの――それも異国から渡ってきたものに対して、常人の力が通用するはずもありません。そう、実は彼女たちもまた――なのであります。
(第一話でその一端が明かされるシーンのインパクトたるや――その後の、雛あられと清が見開きで見せるアクションも実に格好良い)
そしてそんな彼女たちの妖退治が、あくまでも長崎奉行所の指揮/依頼の下で行われるのもユニークなところであります。
長崎奉行所の同心として彼女たちとの繋ぎをつけ、そして陣頭指揮を取る相良。基本的に妖への止めとなるモノを使用できるのは彼のみという設定も良いのですが――何よりも、相良と太夫や禿たちとの関係が、一種チャーリーズ・エンジェル的であるのが、印象に残ります。
いや、本作の場合、それよりももっと危うい関係と言えるかもしれません。何故なら相良の場合は、自分の役目以上に、彼女たちの身の上を慮り、彼女たちに(恋愛的な意味でなく)感情移入している節がありありとあるのですから……
この巻のラストのエピソードでは、菊花太夫の正体の一端と、彼女と禿たちの関係性が語られ、妖との戦いが決して綺麗事では済まされないものであることが浮き彫りとなっていく本作。
そんな中で、相良が、禿たちが、太夫がいかにして妖と戦い、いかなる運命を辿るのか――また一つ、先が楽しみな作品が増えました。
細かいこと(?)を言えば、他は全員きちんと剃っているのに、相模だけ月代を剃っていないのが目について仕方ないのですが、これはまあ仕方がないということで……
(パイロット版を読んだ後だと、余計な疑いをかけたくなるのですが、これはまあ考えすぎとして)
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