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2022.05.14

辻灯子『帝都雪月花』『帝都雪月花 昭和怪異始末記』 おかしなコンビの妖怪騒動記

 昭和初期の帝都・東京を舞台に、おんぼろ道場の一人娘・和佳と飼い猫(実は猫又)の寅吉、そして自称妖怪退治屋の青年・秀真を中心に繰り広げられるコミカルな騒動を描く、四コマ漫画とショートコミックの二部作であります。

 まだ震災の爪痕も生々しく残る昭和二年のある日――東京の片隅でおんぼろ道場を営む瓜生家の娘・和佳は、ここ数日行方知れずの飼い猫・寅吉が、洋装の青年に頭から食われるという夢を見て目を覚まします。
 その後父と銀座に出かけた彼女は、そこで夢に現れた青年を目撃。神代秀真と名乗ったその青年は、寅吉の正体が猫又だったと明かし、自分の生業が妖怪退治だと語るのでした。

 この家には妖気が凝っていると告げ、住み込みで対応すると提案する秀真。かくして彼を間借人として置くことになった瓜生家ですが、妖怪騒動はその後も続き……


 という設定で展開するこの『帝都雪月花』シリーズ。じゃじゃ馬かつ締まり屋の和佳と、飄々とした毒舌家の秀真という主役コンビの設定は、普通の(?)妖怪もののように感じられるかもしれませんが、基本的に物語に漂うムードはかなり緩めで、どこか、いやかなりすっとぼけた味わいがあります。

 そもそも普通であればヒーロー役になりそうな秀真自身、妖怪なのか人間なのかちょっと得体の知れない青年。何しろ妖怪退治の方法というか、妖怪を捕らえてどうするのかと思えば、食べてしまう(!)というとんでもないヤツなのですから。(そのほかにも分身が勝手に外をほっつき歩いたり……)
 そんな秀真を前にしてもほとんど動ぜず、普通に(?)ツッコミを入れたり、妖怪よりも家の財政状況に血道を挙げる和佳もある意味ただものではないヒロインというべきでしょう。

 そんな和佳を守ろうとしつつも相手にされず、秀真からは食い物として狙われ――と、実は主人公二人に振り回される猫又の寅吉が一番常識人というシチュエーションも、何とも愉快であります。
 とはいえ、その寅吉自身が油の舐め過ぎで瓜生家の家計を圧迫している(和佳の頭痛の種になっている)のですが……
(もっとも本作では、貧乏なのに次から次へと曰く付きの骨董品に手を出して騒動を起こす和佳の父が、ダメ人間第一位でしょう)

 ちなみに冒頭に述べたとおり、本作の舞台は昭和二年。この時代ならではの事件(史実)そのものが物語の題材となることはありませんが、この時代ならではの風物・風俗がふんだんに背景に散りばめられているのは、なかなか魅力的であります。


 さて本シリーズは、冒頭で軽く触れたように一作目の『昭和余禄』が四コマ漫画、二作目の『昭和怪異始末記』が一話12ページのショートコミックという、いささか変則的な構成となっています。
 実のところ一作目については、ストーリー要素と四コマギャグの部分の食い合わせに今ひとつ部分もあったのですが、二作目はページに余裕があるためか、その辺りは比較的解消されていたかと思います。


 物語的には、作中にそれまで登場してこなかった和佳の母も顔を出して、いささか切ないながらも、まずは大団円を迎えた本作。
(ちなみに一作目の、和佳のフレンドリーファイアオチも愉快)

 最後まで和佳と秀真がほとんどイイ感じにならないというのもまた本作らしい感じで良く、深刻さというのとは縁遠い、肩の力を抜いて読める作品であります。


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